ミュージカル『アナスタシア』は、1997年のアニメ映画を土台に、2017年にブロードウェイで開幕した作品です。日本では2020年に日本版が初演されました。この記事では物語の流れを中心に解説します。アニメ映画・ブロードウェイ版との違いの詳細は既存の比較記事、作品の魅力はこちらにまとまっています。
※結末まで触れます。
物語の背景
1917年のロシア革命で、ロマノフ王朝は倒れ、皇帝一家は命を落としました。しかし「末の皇女アナスタシアだけは生き延びたのではないか」という噂が、ヨーロッパ中に広まります ― この史実をもとにした伝説が、物語の出発点です。
第1幕
幼いアナスタシアと祖母
物語は革命前夜の宮廷から始まります。幼いアナスタシアは、パリへ発つ祖母・皇太后マリアから、子守唄を奏でるオルゴールを贈られます。「いつかパリで会いましょう」― この約束が、物語全体の軸になります。
10年後 ― 記憶のない少女アーニャ
革命から約10年。レニングラードと名を変えた街で、記憶を失った少女アーニャが道路掃除をして暮らしています。自分が誰なのかも分からない彼女の手がかりは、「パリ」という言葉だけ。
一方、パリの皇太后が「本物のアナスタシアを見つけた者に報奨を出す」と聞きつけた青年ディミトリと相棒のヴラドは、偽のアナスタシアを仕立てる計画を立てます。オーディションに現れたアーニャの立ち居振る舞いに二人は驚き、彼女を「アナスタシア」として教育し始めます。
追う者 ― グレブ
ここで登場するのが、舞台版オリジナルの人物、ボリシェヴィキの将校グレブです。彼の父は皇帝一家の処刑に関わっており、グレブは「皇女の生き残り」という噂を消す任務を負います。しかし彼は、アーニャ本人に惹かれてもいる。この葛藤が、舞台版に独自の緊張をもたらします。
パリへ
アーニャ、ディミトリ、ヴラドは国境を越えてパリを目指します。旅の中でアーニャは少しずつ記憶の断片を取り戻し、ディミトリとの間にも距離の変化が生まれていきます。
第2幕
パリ、そして皇太后
パリに着いた三人。皇太后は、これまで無数の「偽アナスタシア」に失望しており、もう誰にも会おうとしません。バレエ鑑賞の場面、過去の社交界の記憶、そしてヴラドの旧知の女官リリーとの再会 ― 第2幕はパリの華やかさと、真実が近づく緊張が交互に進みます。
真実の瞬間
皇太后とアーニャがついに対面し、幼い日のオルゴールと、二人にしか分からない記憶が重なる場面が、物語の頂点です。アーニャが本物かどうか ― 舞台版はその答えを、観客の胸に落ちる形で描きます。
結末
真実を知ったアーニャには、皇女として生きる道と、ディミトリとともに名もなき一人として生きる道が示されます。そしてグレブとの最後の対峙。彼女がどちらを選ぶのか、グレブが任務を果たすのか ― 結末は、「自分が誰であるか」を他人の承認でなく自分で決める物語として閉じられます。
アニメ映画との違い ― 要点だけ
最大の違いは悪役です。映画の怪僧ラスプーチンと魔法の要素は舞台版では取り除かれ、代わりに歴史の側に立つ人間・グレブが配置されました。これにより、舞台版は「魔法対少女」ではなく、革命という歴史と、ひとりの人間のアイデンティティの物語になっています。音楽面でも、映画の代表曲に加えて舞台版のための新曲が多数書き下ろされています。詳しくは比較記事へ。
まとめ
記憶を失った少女が、自分が誰かを探す旅 ― 『アナスタシア』は、王女の物語であると同時に、「名前ではなく、自分で自分を決める」物語です。上演情報は公式サイトでご確認ください。
そして「移ろいの中で自分を見つける」という主題は、千年前の日本の歌にも通じます。
▶ 記憶と移ろいの物語に、1曲だけ
「いろはフロウ」― 短編『一夜の色』とセットで聴ける一曲
聴きどころ:「いろは歌」の無常を下敷きにした R&B。短い物語と一緒に聴くと、旅の余韻が続きます。
→ 短編『一夜の色』を読んで、「いろはフロウ」を聴く
文責:motet 編集部

