こんにちは。リュウタロウ先生です。東京芸大休学中の作曲家です。
AI作曲はダメとかよく聞きますが…一方で、古今東西の音楽を学習して出来上がっているものなので、分析すると意外と作曲の勉強になったりします。
本記事ではAI作曲で作られた楽曲の音楽理論的側面を分析していきます。
今回取り上げるのは flehmen の「YAIBA」。バンド「アイアンクロウ」の持ち曲で、BPM 167 の疾走域を、スラップベースと角ばったリフで押し切るヘヴィな一曲です。コード譜を開くと、少し驚きます。土台の音が、最初から最後まで動かないのです。
土台が動きません
本曲の和音は B♭(5) → B♭m → B♭m7 → B♭m です。Verse から Chorus まで、この1フレーズで完結します。並べてみれば分かるとおり、ルート(和音の土台となる最低音)は B♭ から一度も動きません。コードが切り替わっているように見えて、動いているのは土台ではなく、その上に載る「色」だけです。
動くのは「色」だけです
では、その色はどう変わっているのか。順に見ていきます。
まず B♭(5)。これはパワーコードと呼ばれる形で、3度の音を含みません。長調とも短調とも決まらない、いわば無彩色の響きです。次の B♭m で短3度が加わり、ここで初めて「陰」が確定します。続く B♭m7 では7度の音が乗り、翳りに奥行きが差す。そして再び B♭m へ戻る。
コードチェンジの代わりに、同じ土台の上で「色の確定」と「翳り」が往復している ― 刃が鞘から抜かれ、光り、また収まるような設計です。
【ワンポイント】ワンコードという様式
和音を動かさずに一曲を持たせる手法は、ロックの専売特許ではありません。ファンクにその系譜があります。ジェームス・ブラウンの楽曲には1つのコードの反復を基本に進むものが多く、だからこそ曲中で放たれる「Take it to the bridge!(ブリッジへ行くぞ)」という彼の掛け声が、決め台詞として音楽史に残りました。和音が動かないことは、貧しさではなく様式なのです。
推進力は誰が担っているか
和声が動かないのに、なぜ最後まで飽きずに聴けるのか。答えは単純で、推進力をリズムとリフとスラップベースが全部引き受けているからです。
本曲のスタイル指定は hard rock, progressive, mutation funk, guitar, slap bass です。スラップベースを主役に据えた曲は、本来なら余白を活かしてスカスカに組むのが定石でしょう。ところが本曲は、その余白にギターが踏み込み、ドラムが刻みを詰めます。全員が前に出て、譲らない。和声の「静」とアンサンブルの「動」、その落差がそのまま曲の運動になっています。
歌詞と設計が一致しています
そしてここが、私が今回いちばん唸った点です。この構造は、歌詞と完全に一致しています。
「揺るがぬ決意」― 土台の B♭ は、文字どおり最後まで揺るぎません。「無音の中で刃が光る」― 静かに持続する和声の中へ、リフが一瞬だけ切り込む。歌詞のテーマを、コード譜がそのまま描いているのです。狙って設計したのだとすれば見事ですし、生成の結果としてここへ着地したのだとすれば、それはそれで示唆的です。
結
「YAIBA」を聴くときは、土台の音がどこにも行かないことを意識してみてください。動かない土台の上で、色と熱量だけが暴れている ― 疾走するのに重い理由が、そこにあります。
いかがだったでしょうか?
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