UNDERTALEの大人気楽曲”Megalovania”を音楽理論で解説!激しく思えて実は「なめらか」です。

目次

UNDERTALEの大人気楽曲”Megalovania”を音楽理論で解説!

こんにちは。大学で作曲を勉強しており、昨日無事卒業が確定した加藤龍太郎です。現役アーティストが教える音楽教室「コロイデア音楽塾」にて音楽理論レッスンを開講中、また同教室のオンラインサロンにおいて音楽理論解説コンテンツ「度数塾」を配信しています。

先日、同じくコロイデア音楽塾の講師であるギター伊藤さんとの「スーツとボーズ」というユニットで大人気ゲーム「UNDERTALE」の裏ラスボス戦BGM、「Megalovania」をカバーいたしました。

【COVER】メガロバニア/Megalovania|アンダーテール/Undertale【スーツとボーズ】
私がスーツです。

UNDERTALEは本当に名作ゲームでして、ストーリーやゲームシステムも素晴らしいのですが、BGMも名曲揃い。おまけにゲームからBGMまで含めてほぼすべてを制作者のTobyfoxさん一人で担当されているとのことですから驚きです。

ブームのピークが2015-2017あたりだったと記憶しているのですが、受験期によくサウンドトラックアルバムをBGMとして流していました。

今回はそんなUNDERTALEを彩る名曲たちのなかでも最も人気といっても過言ではない裏ラスボス戦のBGM、“Megalovania”の魅力を音楽理論の面から解説していきたいと思います!

“Megalovania”の魅力

Undertale – Megalovania

カッコいい。強く歪んだギターサウンドを基調にしたメタルで、結構激しい曲調です。

しかし一方、どこかオシャレな感じがしませんか?ただ激しいだけではないというか…

UNDERTALEの楽曲は超王道を行く感じではなくどこか外してオシャレな雰囲気を実現している楽曲が多いです。この王道からちょっと外れるという特徴がゲームの雰囲気をそのまま反映しているような感じです。

そしてMegalovaniaも例外ではなく、オシャレに外しているポイントがあるのです。

“Megalovania”の音楽理論的ポイント

今回紹介するMegalovaniaの音楽理論的ポイントは、ずばり「クリシェ」です。

以前書いた東京事変「赤の同盟」の分析記事でも解説したコードの技です。よろしければそちらも読んでいただけますと理解が深まるかと思われます。

「クリシェ」とは何でしょうか?簡単に言い表すと、

コードの一部分の音だけをなめらかに変化させる技

のことです。激しい楽曲に見えて、実は「なめらか」にする技が使われているんですね。正面からぶん殴るみたいな曲が多いメタル調で大胆にクリシェを使う例は珍しいです。

詳しく解説していきます!

クリシェについて詳しく解説

コードの一部分の音だけをなめらかに変化させるとは具体的にはどうやるのか?Amを例として見ていきましょう。キーはC(Am)とします。

Am 構成音(下から順に): A,C,E

コードの一番下の音だけをなめらかに変化させてコードを作ってみます。つまりAですね。CとEは固定します。

Am 構成音: A,C,E
?  構成音:A♭,C,E
?  構成音:G,C,E
?  構成音:F♯,C,E

ご覧のように、構成音の一番下だけをなめらかにA→A♭→G→F♯と動かし、4つのコードからなる進行を作りました。続いて、コードネームを判定してみましょう。

?  構成音:A♭,C,E

まずこちらのコード。少しわかりづらいのですが、A♭メジャー(構成音:A♭,C,E♭)の第五音が半音上がっている、つまりはA♭augだとわかります。

?  構成音:G,C,E

次にこちら。これは視点を変えると、Cが転回してベースにGが来ている、と考えることができます。つまりはC/Gです。

?  構成音:F♯,C,E

最後はこちら。下から順に完全1度,減5度,短7度の三つ、となると、該当するコードが無いように思えますが、セブンスコードは度々音を省略して演奏されます。ここではキーがC(Am)なので、その中の音を使って完全1度,減5度,短7度の隙間を埋める3度を探すと、F#から短3度のAがみつかります。つまりこのコードは、

?  構成音:F♯,A,C,E

からAが省略されたものとみることができそうです。こうなると、F♯m7 (構成音:F♯,A,C♯,E)のC♯が半音下がったコード、つまりF♯m7 -5として捉えられます。まとめると、

Am     構成音: A,C,E
A♭aug   構成音:A♭,C,E
C/G      構成音:G,C,E
F♯m7 -5  構成音:F♯,C,E

以上のようになります。ピアノやギターが手元にある方は、是非実際に弾いて確かめてみてください。何となくどこかで聴いたことがあるオシャレな感じの進行だと気づくと思われます。

人間は半音でなめらかに進む動きを気持ちいい動きとして認識する傾向が強いです。音楽理論の歴史は大部分が「如何に半音のつながりを気持ちよく作っていくか」だったと言っても過言ではありません。

さらに人間の耳は変化を求める一方、全部が変化してしまうよりはどこかの音が保たれていてほしいという志向も持っています。そんな欲求を叶える一つの形がクリシェなのです。

クリシェとはフランス語で「常套句」という意味で、「まあとりあえず使っとけば気持ちよくなるやつ」と少しばかり揶揄もこめて(?)こう呼ばれています。ここで、Megalovaniaの一番有名な最初のフレーズのコード進行に目を向けてみると…

Dm     構成音: D,F,A
D♭aug   構成音:D♭,F,A
F/C     構成音:C,F,A
Bm7 -5   構成音:B,F,A

と、見事にクリシェになっています。

オマケに、一度聴いたら耳にこびりついてしまう冒頭のフレーズは、「テテテッテ…」の最初の「テテ」だけがなめらかに下がっていき、それ以外はずっと同じ音が繰り返されています。

クリシェのコード進行の上ではMegalovaniaの冒頭部分のように、一部分しか変化しない繰り返しのフレーズが選ばれることが多いです。これを覚えておくと、作曲にも活かせますし、「この部分繰り返しなのになんかなめらかに動いてる感じするな…」という聴感からクリシェだと推理できる→耳コピにも役立てることができます。

Megalovaniaは冒頭部分以外にも曲のループのつなぎ部分にも同様のクリシェが使われています。なにしろかなり長い間ループで再生されることになるゲーム音楽というジャンルですので、長時間聴いていても疲れない工夫が必要なんですね。その点も、激しくかつなめらかなMegalovaniaの魅力につながっているのではないでしょうか。

おまけに他のクリシェも紹介

上で紹介したのは、「Ⅵmのルートから下降していくクリシェ」でした。クリシェにはもういくつか種類がありますので、そちらも合わせて紹介します。例は全てキーC(Am)で書きます。先述のように、「本当はセブンスなんだけど省略されている音があってセブンスに見えなくなっている」「クリシェに辻褄を合わせるために」など多数出てきますので、並んでいる音がどうしてそのコードネームになるのかなど、ご自分でも是非考えてみてください。

「Ⅰの第五音から下降していくクリシェ」

C     構成音:C,(E),G
F#m7 -5/C 構成音:C,(E),F#
Csus4   構成音:C,(E),F ,(G)
C     構成音:C,E,(G)
★要はCが固定されていてG→F♯→F→Eと動いていればOK。
 Eに関しては途中でFとぶつかるので省略されがちです。また、コードネームをつけるには三音必要ですから、辻褄を合わせるためにGがカッコ付きで入って来ます。

使用されている曲の例)プリンセスプリンセス「M」冒頭のピアノ,PUFFY「アジアの純真」冒頭のリフ

「Ⅰのルートから下降していくクリシェ」

C          構成音:C,E,G
Em/B        構成音:B,E,G
Edim/B♭       構成音:B♭,E,G
A7(Am7の場合もあり) 構成音:A,E,G

使用されている曲の例)坂本九「見上げてごらん夜の星を」

他にも「Ⅰの第五音から上昇していくクリシェ」「Ⅱのルートから下降していくクリシェ」などなど沢山ありますし、なんならこれを読んだ皆さんが今から編み出すことも可能です。どこかを固定してなめらかに変化させていけばいいだけですからね。

是非演奏したり考えたり、いろいろ試してみてください。

まとめ

今回の記事では、UNDERTALE“Megalovania”の魅力と、その秘密であるクリシェについて解説してきました。

先述のように「どこかを固定しつつどこかを気持ちよくなめらかに動かす」というのは聞きやすいコード進行の基本です。それを追求するクラシックの音楽理論もあるぐらいです。(和声法)クリシェをきっかけにコードと仲良くなれるチャンスかもしれません。

また、UNDERTALEについては本当に名曲揃いですので、今後他の楽曲の解説記事も書けたらなあと漠然と考えております。お楽しみに。ちなみに、私が一番好きな楽曲は何だかんだスタート画面の「Once upon a time」です。

最後までお読みいただきありがとうございました!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次