スチールドラムとは?基礎知識や歴史、楽器の魅力について解説

スチールドラムという楽器になじみがなく、名前を聞いたことがないという方も多いのではないでしょうか。スチールドラムは、カリブ海に位置するトリニダード・トバゴ共和国で生まれ「20世紀最後のアコースティック楽器」とも呼ばれています。非常に美しい音色を奏でることができ、大人数で演奏することで迫力あるサウンドを出すことも可能です。本記事では、スチールドラムに関する基礎知識や歴史、楽器の魅力などについて詳しく解説します。

目次

スチールドラムとは

スチールドラムは、廃棄されたドラム缶を再利用することで生まれた打楽器で、スチールパンとも呼ばれています。スチールドラムは発祥国であるトリニダード・トバゴ共和国では国民楽器の指定を受けています。

スチールドラムと一般的なドラムとの違いは音階を奏でることができるという点です。スチールドラムの打面にはいくつもの凹凸が施されており、叩く箇所によってさまざまな音程を出すことができます。製作された初期は演奏できる音階が少なかったのですが、現在では改良を重ね、最大で34~36もの音階に対応することが可能となりました。

スチールドラムの歴史

スチールドラムが誕生したのは16世紀以降と言われています。当時、トリニダード・トバゴにはヨーロッパの国々が進出したことによって、多くのアフリカ人奴隷が連れてこられていました。そして、1838年に奴隷制度が廃止された後も黒人への差別が続いたため、警察や政府に対する暴動が多発していたのです。

また、トリニダード・トバゴではキリスト教の謝肉祭の時期に合わせてカーニバルが開催されていますが、カーニバルは奴隷制度の廃止後に、黒人がヨーロッパのカーニバルを真似したことで始まったといわれています。

このカーニバルが開催される時期に暴動が起きていたため、政府は金属製のスティックを使用したドラムの演奏を禁止としました。そこで、黒人たちは竹の棒でドラム缶やフライパンを叩く「タンブー・バンブー」によって音楽を楽しんでいましたが、これも政府によって禁止されてしまいます。

制限が厳しくなっていくなか、ウインストン・スプリー・サイモンという人物がドラム缶を叩いて修理しようとしたところ、へこんだ箇所を叩くと音程が変わることを発見しました。この偶然の気付きがきっかけとなり、スチールドラムの原型となる「ピンポン」という楽器が生まれたそうです。

その後、スチールドラムは多くの人々によって改良が加えられ、黒人の間で人気が広がっていきました。第二次世界大戦後には多くのスチールバンドが結成され、北中米を中心にライブ活動を行ったことで認知度は上がっていきます。

そして1992年、スチールドラムはトリニダード・トバゴ政府によって正式に国民楽器として認定されることになったのです。カーニバルではスチールバンドのコンテストも開催され、今日まで発展を続けています。

スチールドラムの魅力

スチールドラムは、ドラム缶をハンマーで叩いてへこませることで音階を作っていきます。シンプルな構造となっていますが、音色は非常に透明感があり、さわやかで美しい響きが魅力です。近年はクロームメッキ加工やパウダーコーティングを施しており、見た目も美しくなっています。

また、スチールドラムはその美しい音色から、さまざまな有名曲に使用されています。例えば、ディズニー映画「リトル・マーメイド」の劇中歌である「アンダー・ザ・シー(Under the Sea)」や、The Beach Boysの大ヒット曲「Kokomo」などにも取り入れられています。そのため、スチールドラムの名前は知らなくても、その音色は耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

特に、大人数によるスチールドラムの演奏は圧巻となっているため、まだ聴いたことがないという方はぜひチェックしてみてください。

スチールドラムの種類

・テナー

テナーは、スチールドラムのなかでも主にメロディーラインを担当する重要なパートです。テナーには、最も低い音がC(ド)になっている「ローテナー」と、最も低い音がD(レ)になっている「ハイテナー」の2種類があり、現在はローテナーを使うことが主流といわれています。

また、テナーは「リード」や「ソプラノ」と呼ばれることもありますが、スチールドラムでテナーといえば、この音域を担当する楽器として世界的に認知されています。

・ダブルセコンド

ダブルセコンドは、ピアノの音階で言う「F#3 (ファ#)~C#6(ド#)」の音域を担当し、主にコードの演奏に使われます。当初はハーモニーを作るために製作されたとも考えられていますが、その音域の幅からリードも担当することができます。ソロパフォーマンスで使用するプレイヤーもおり、その場合は「メロディックタイプ」と呼ばれるダブルセコンドを使う傾向にあります。

・ダブルテナー

ダブルテナーは、スチールドラムを2つ並べた形をしており、メロディーラインやハーモニーを担当することが多いです。高音域と中音域(F3[ファ]~B5[シ])に対応することができ、大人数で演奏する場合はテナーを支える役割を担っています。

・ダブルギター

ダブルギター(C#3[ド#]~G#4[ソ#])は2つのスチールドラムで構成され、主にコード演奏を担当します。ドラム缶の1/3という大きめのサイズとなっており、中音域に対応する楽器としてハーモニーを演奏することもあります。スチールドラムのなかで、対応している音程は最も少ないタイプですが、大人数での演奏には欠かせない存在です。

・チェロ

チェロは、主に中音域のメロディーラインを担当したり、ダブルギターとともにハーモニーを形成したりする役割を担う楽器です。スチールドラムを3つ並べた「トリプル・チェロ( B2[シ]~B♭4[シ♭])」と、4つ並べた「フォー・チェロ[B♭2(シ♭]~C#5[ド#])」の2種類があります。ダブルギター同様にスカート(楽器の胴部分)が長く、豊かで深い響きを出すことが可能です。

・クワドロフォニック

クワドロフォニック(B2[シ]~B♭5[シ♭])は、4つのスチールドラムがセットになった楽器で、スチールドラムのなかでは最も幅広い音域に対応しています。主に中低音域を担当し、テナーやチェロのメロディーラインをサポートすることで、演奏に厚みを持たせる役割を担っています。また、演奏している姿が踊っているように見えることから、視覚でも楽しませてくれるパートです。

・ベース

ベース(A1[ラ]~D3[レ])は、低音域を担当するスチールドラムです。ドラム缶そのままの大きさで、一般的には6本のベースをプレイヤーの周囲に並べて使用します。100人を超えるような大人数で演奏する場合は、9~12本のベースが使用されることもあり、迫力ある低音のサウンドを響かせています。

スチールドラムを演奏する際のポイント

スチールドラムの表面には、さまざまな形の凹凸がつくられており、叩く箇所によって音階が変わる仕組みです。そのため、音階部分の真ん中を叩くことで、より正確な音程を出せます。良い響きの音を出すにはどの位置を叩けばいいのか、探りながら練習していきましょう。

また、スチールドラムは「マレット」と呼ばれる専用の道具を使って叩きますが、なるべくスチールドラムとの接触時間を短くすることもポイントです。叩くのではなく弾くようなイメージで演奏すると、音の響きが良くなり、スチールドラム本体へのダメージも抑えることができます。

スチールドラムはシンプルな構造で誰でも音を出すことができますが、美しい響きを引き出すにはコツがいる奥深い楽器です。各地でスチールドラムの教室なども開催されているため、気になる方は足を運んでみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は、スチールドラムに関する基礎知識や製作された歴史、楽器の種類や魅力などについて解説しました。日本人にはあまり馴染みがないかもしれませんが、非常に美しい音色を奏でる素晴らしい楽器です。本記事を読んでスチールドラムに興味を持ったという方は、ぜひ演奏を聴いてみてください。

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