MAISONdes「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」のコード進行をダイアトニックコードで分析!
「うる星やつら」新シリーズEDとして人気の本楽曲。ぜひ本記事の解説を読んで、曲への理解を深め、演奏や作曲に活かしていただければと思います!
原曲はこちら
「ダイアトニックコードって何?」「なんで分析にダイアトニックコードを使うの?」という方はぜひこちらの記事も読んでください。
ダイアトニックコードで楽曲分析
イントロ,Aメロ
(Em →F♯m→Bm→)×4
Em →F♯m→Bm→
Em →F♯→Bm→D→
C♯m7-5→F♯7→Bm→
G →F♯→Bm→
G →F♯→Bm→
Em →F♯→Bm→
C♯m7-5→F♯7→Bm→
G →F♯→Bm→
まずイントロ,Aメロから、キーを判定しながらコード進行を見ていきましょう。
鉄則:「コード進行の括りの頭は、大体ⅠかⅣかⅥm(たまにⅡm)」
コード進行の一くくりの最初のコードを順に見ていくと、この時点では、EmかGの場合が多いことがわかります。ということは、Em→ⅥmかつG→Ⅰ、つまりキーGか、Em→ⅡmかつG→Ⅳ、つまりキーDの可能性が考えられます。(鉄則に当てはまらない異分子である C♯m7-5は一旦無視します。)
コード進行のくくりの最初だけでなく、後ろの方にも注目してみます。すると、全てのくくりがBmで締めくくられていることがわかります。
もしキーGの場合、締めくくりが全てⅢmになるということです。Ⅲmとは、ドミナントとトニックどっちつかずなコードですから、その可能性は考えづらいです。他方、キーDとすると、BmはⅥmにあてはまりますから、しっかりコード進行を締めくくるコードとしても違和感がありません。よって、この楽曲のキーはDになります。
その前提のもと、ダイアトニックコードの考え方を用いて、コード進行をローマ数字に変換していきます。
(Ⅱm →Ⅲm→Ⅵm→)×4
Ⅱm →Ⅲm→Ⅵm→
Ⅱm →Ⅲ→Ⅵm→
Ⅶm7-5→Ⅲ7→Ⅵm→
Ⅳ→Ⅲ→Ⅵm→
Ⅳ →Ⅲ→Ⅵm
Ⅱm →Ⅲ→Ⅵm→
Ⅶm7-5 →Ⅲ7→Ⅵm→
Ⅳ→Ⅲ→Ⅵm→
こうしてみると、単純なようでいて、意外と芸が細かいです。この部分のポイントとなるのは、Ⅱm、Ⅳ、Ⅶm7-5の使い分け、そしてⅢm、Ⅲ、Ⅲ7の使い分けによる、ある要素のコントロールです。
これらの使い分けによって、何をコントロールしているのか。それは、「コテコテ感」です。
ちょっと抽象的な表現にはなってしまいますが、「Ⅵmをどれほど強く指向するか」を言い換えたものだと思ってください。
Ⅵmとは、曲の暗さを司るコードであり、その暗さを全面に出すか、それともさりげなく出すかによってコテコテ感が変わってくるのです。コテコテ感というとなにか悪いニュアンスが伝わってしまうかもしれませんが、もちろん「敢えて」の話です。
とくに本楽曲は昭和のネオンっぽい雰囲気の演出を狙っている部分があり、そのようなコンセプトの曲では敢えてコテコテな感じにコントロールするという選択肢が多いにあり得るのです。
さて、もう少し詳しく見ていきます。「コテコテ感」のコントロールは、サブドミナント(S)→ドミナント(D)→トニック(T)がループする系統のコード進行において、TにⅥmが設定されている際、SとDの種類の選び方によって行われます。
(S)→(D)→Ⅵm
SにはⅡm、Ⅳ、Ⅶm7-5
DにはⅢm、Ⅲ、Ⅲ7
が当てはまります。そして、「コテコテ度」で並び替えると、それぞれ低い順に、
S:Ⅳ、Ⅱm、Ⅶm7-5
D:Ⅲm、Ⅲ、Ⅲ7
となります。これを意識しつつ、イントロ、Aメロ各部分での使い分けを見ていきましょう。
①Ⅱm →Ⅲm→Ⅵm→
Sはややコテコテ、Dはコテコテでない、という組み合わせです。後に出てくるⅢやⅢ7を含むコード進行とは異なり、全てがダイアトニックコードで構成されているため、音数が多いイントロにも対応しやすくなっています。
また、Aメロの最初の一回しだけこの進行を引き継いでいるのもポイントです。最初の一回しがコテコテ感の無い進行になっていることで、その後の癖のある音運びが際立つような作りになっています。
②Ⅱm →Ⅲ→Ⅵm→
Ⅵmを導くドミナントとして、ⅢmではなくノンダイアトニックコードであるⅢを用いているパターンです。ここではメロディにもⅤ♯の音を用いることで、コテコテ感を敢えて押し出す演出をしています。
③Ⅶm7-5→Ⅲ7→Ⅵm→
もっともコテコテなコード進行がこちらになります。
ここではⅦm7-5は「リレ一テッドⅡm」という役割を果たしています。「リレ一テッドⅡm」とは、あるコードを導くドミナントの前に置かれるコードのことです。あるコードをⅠとしてそれを導くドミナントがⅤ、その前にさらにあるコードをⅠとした際のⅡmを置くことで、仮のⅡm→Ⅴ→Ⅰを完成させ、言わば部分転調のような効果をもたらすことができます。
ここの場合、目標とするコードはⅥmです。それを導くためのドミナントはⅢ7です。その前に、ⅥmをⅠと見た際のリレーテッドⅡm(Ⅶm7-5)をおけば、Ⅵm目標のⅡm→Ⅴ→Ⅰが完成し、Ⅵmを最も強く導くコテコテな進行が完成します。この曲の場合、4回しコード進行がある中での3回し目、起承転結の転として作用していますね。
さらに、ⅢがⅢ7になっているというのもコテコテ度を増しているポイントです。セブンスコードは第3音と第7音の増四度にが強烈な不協和の響き(トライトーン)を持っているため、ノンダイアトニックとしてのインパクト、またドミナントとして次のコードを強く導く効果があります。
リレ一テッドⅡmを考える際、目標とするのがメジャーコードである場合は発想はシンプルになり、単にルートが長2度上のマイナーコードでいいのですが、マイナーコードの場合は少し工夫が必要で、単にルートが長2度上のマイナーコードを置くパターンもあれば、今回のようにルートが長2度上のm7-5を置くパターンもあります。
もう一つあり得るパターン
Ⅶm7→Ⅲ7→Ⅵm→
④Ⅳ→Ⅲ→Ⅵm→
こちらは①とは反対に、Sはコテコテでない、Dはややコテコテ。というパターンです。Ⅳから始まる進行は爽やかな感じを出すのに向いています。
多くの曲では、基本のループをこの④のパターンで行い、アクセントとしてⅡmを用いてややコテコテ感を出す、といった構成が取られるのですが、この曲は珍しく、先述のように昭和のぎらぎらした感じを主に狙っているため、Ⅳの爽やかさはⅡm、Ⅶm7-5の応酬の後口直しのようにつかわれています。
Bメロ
Em→A→F♯m→ Bm→
Em→F♯7→Bm→
Em→A→F♯m→ Bm→
Em→A→F♯→
キーDでローマ数字に変換します。
Ⅱm→Ⅴ→Ⅲm→ Ⅵm→
Ⅱm→Ⅲ7→Ⅵm→
Ⅱm→Ⅴ→Ⅲm→ Ⅵm→
Ⅱm→Ⅴ→Ⅲ→
Aメロに比べて、動きが現れた進行です。Ⅱm→Ⅲm→Ⅵmという骨格は変えずに、Ⅴを挟んで躍動感をプラスしたような進行ですね。折り返しではAメロで扱っていたコテコテ感を出して一旦落としています。「躍動したと見せかけ折り返しでは落ち着ける→再び躍動、サビへ向かう」というのはBメロの鉄板の流れです。
Bメロの最後はほぼ確実にサビに向かうドミナントが配置されますが、第一候補はⅤです。次に多いのがⅢですが、この曲はⅢでサビに向かう雰囲気を作っていますね。
サビ
A→G♯→C♯m→Bm→E→
F♯m→G♯→C♯m→
A→G♯→C♯m→
A→G♯→C♯m→
キーDに当てはめてみようとしておかしなことになると気づいた方へ。
はやめにネタバラシをしてしまいますが、サビはキーDではなくキーEに転調しています。耳で聞いてもなかなかわかりやすい転調ではないでしょうか。
転調の仕方としては、単純に全音上げるというなかなかの力技ですが、その分サビが印象的に鳴ります。
キーEの前提でローマ数字化すると、以下のようになります。
Ⅳ→Ⅲ→Ⅵm→Ⅴm→Ⅰ→
Ⅱm→Ⅲ→Ⅵm→
Ⅳ→Ⅲ→Ⅵm→
Ⅳ→Ⅲ→Ⅵm→
サビ前までのⅡm優位の進行とは違い、サビではⅣの爽やかな存在感が中心になっています。全音上げ転調も相まってなかなか爽快な気分のサビですね。
しかし「その時が来たって〜」の印象的なフレーズはⅡm→Ⅲとコテコテ感を出して一旦落としています。Bメロと似たようなロジックがここにも見られます。その前の「Ⅴm→Ⅰ→」は先述のリレ一テッドⅡmを用いて強くⅣを導く進行ですので、そこを裏切ってⅡmに行くというのはなかなかⅡmの鳴らしがいもあります。
サビまでみても基本的にTがⅥmに落ち着くということはずっと一貫していますが、SとDのパラメータ操作でここまで演出ができるということは覚えておいて損はありません。
まとめ
MAISONdes「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」のコード進行分析でした。
同じことを繰り返しているように聞こえるコード進行にこそ分析ポイントが隠れています。
特に、Ⅵmを目指すSDTループ系楽曲は単調な作りになりがちですので、作曲の際にいかにその中でメリハリをつけるかは大事になります。
その際には、ぜひこの記事の内容を役立ててみてください。
それでは、良き音楽ライフを!