YOASOBI「アイドル」の魅力を音楽理論で解説!ペンタトニックに少しの4と7。

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YOASOBI「アイドル」の魅力を音楽理論で解説!ペンタトニックに少しの4と7。

【本人解説】アイドル【いとうこっそりくらぶ|台無しカバー】

こんにちは。加藤龍太郎です。現役アーティストが教える音楽教室「コロイデア音楽塾」にて音楽理論レッスンを開講中、また同教室のオンラインサロンにおいて音楽理論解説コンテンツ「度数塾」を配信しています。

「スーツとボーズ」というユニットで私が共に活動している、超絶ギタリスト伊藤さん率いる超絶バンド、いとうこっそりくらぶの「台無しカバー」シリーズから、YOASOBI「アイドル」の音楽理論解説をします。

アイドル【いとうこっそりくらぶ|台無しカバー】

話題のアニメ「推しの子」のOP曲となっている本曲。YOASOBIのキャッチーさが全開です。

本記事では、そんな「アイドル」のキャッチーさを実現している、あるメロディの特色について、音楽理論の観点から解説していきます。

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

ペンタトニックスケールについて

まず、「アイドル」の魅力に大きく関わっているのが、「ペンタトニックスケール」です。まずはこの用語について解説していきます。

“ペンタトニック”という言葉自体はギリシャ語から来ていて、”penta”が「五つ」を意味し、”tonic”が「音」を意味します。つまり、文字通り「五つの音」のスケールというわけです。

ペンタトニックスケールは2つの主要な形式があります。
メジャーペンタトニックスケールマイナーペンタトニックスケールです

メジャーペンタトニックスケールは、メジャースケール(ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド)の1度、2度、3度、5度、6度の音を使用します。例えば、CメジャーペンタトニックスケールはC(ド)、D(レ)、E(ミ)、G(ソ)、A(ラ)となります。

一方、マイナーペンタトニックスケールは、ナチュラルマイナースケールの1度、3度、4度、5度、7度を使用します。Cマイナーペンタトニックスケールは、C(ド)、Eb(ミ♭)、F(ファ)、G(ソ)、Bb(シ♭)となります。

メジャースケールをずらしたものがナチュラルマイナースケールなのですから、メジャーペンタトニックスケールをずらすことでマイナーペンタトニックスケールを作ることもできます。

キーCにおいてはCメジャースケールとAマイナースケールどちらも使えるように、もちろん、CメジャーペンタトニックスケールとAマイナーペンタトニックスケールの両方が使えます。

CメジャースケールをずらすとAナチュラルマイナースケールになる
C,D,E,F,G,A,B,C→A,B,C,D,E,F,G,A

CメジャーペンタトニックスケールをずらすとAマイナーペンタトニックスケールになる
C,D,E,G,A,C→A,C,D,E,G,A

どちらのスケールも5つの音しか使わないので、初心者にとっては演奏しやすいスケールです。特にソロを演奏する時や即興演奏にはよく使用されます。

なぜペンタトニックスケールがここまで人気なのかというと、そのシンプルさと汎用性にあります。ブルース、ロック、ジャズ、ポップ、カントリー音楽など、あらゆるジャンルでこのスケールが活用されています。これは音の選択が限られているため、誤って”音痴”になるリスクが少ないからです。

強烈で、お上品な、「4と7」

なぜ ペンタトニックスケールを使うと音痴になりづらいのか。メジャースケールにあって、ペンタトニックスケールにないもの。それは、「4と7」です。以下、マイナーの世界も含めると話がややこしくなるので、マイナーはメジャーをずらしたものでしかないので考えなくても大丈夫、とします。どうしてもマイナーでの事情を考えたいなら、「4と7」を「2と6」に置き換えて下さい。

Cメジャースケールにおいては、「4と7」は、FとB。Dメジャースケールにおいては、GとC♯…といったように、各メジャースケールの4番めと7番めの音は、前後に半音の関係を作るという他の音との決定的な違いがあります。

CDEFGABC
DEF♯GABC♯D

黄色で示したところが半音です。

ペンタトニックスケールは、スケールの中に、半音の関係が一切ありません

CDEGAC
DEF♯ABD

これが、ペンタトニックスケールがポピュラー音楽で愛用される理由です。「半音」というものがもつ独特の強烈さを避けているのです。

どういうわけか、人間の耳は半音のつながりを非常に強く認識します。クラシック音楽の発展の歴史は長い間、「半音をいかに気持ちよく繋げていくか」というものでした。綿密に練り上げられたプランのもと半音関係を鳴らしていく曲はつながりの強烈なエネルギーを完全に手なづけていて、聞いていてとても気持ちが良いです。

小フーガ ト短調 BWV578 (バッハ)
偉大なバッハ様の曲です。
様々なキーで、4→3、7→1という半音関係をいかに作っていくか、そしてそれをいかに繋げるか、
という点において、バッハは最高峰の技術をもって後世にその模範を示しました。

しかし一方で、半音のつながりを考えなしに作ってしまうとどうなるか。メロディだけでは成立するかもしれません。音楽はメロディ単体で聴かせるものではなく、ベースやコードなど様々な音がなりつつメロディがなるものです。

特に、ポピュラー音楽は、頭でこねくり回すのではない、身体的な即興演奏が重要な要素です。そこで半音を使うのは怖いです。できれば最初から考えたくもない。

そこで、ペンタトニックスケールなのです。最初から半音の関係を持たないスケールを用いれば、ベースやコードの音と半音んでぶつかったりする可能性が非常に低くなります。

おまけに、クラシックの連中が作る「お上品な」感じからも逃れることができます。「4と7がなくてクラシック的でない」というのは、そのままポピュラー音楽の存在根拠になります。

ポピュラー音楽とペンタトニックスケールはこうして相互作用によって固く結びついたのでした。

「アイドル」のサビメロディ

さて、ペンタトニックスケールの定義と特徴をしっかり理解したところで、いよいよ「アイドル」のサビメロディの解説をしていきます。

だれもがめをうばわれてく
E G A E A G A E A G A

きみは完璧で究きょくのアイドル
E G A C B G A B C D F E

金輪際あらわれない
A E A G A E A G A

いち番星の生まれ変わり
E G A C B G A A G A

Ahそのえがおで あいしてるで
CA G A C D E A G A C D E A

だれもかれもとりこにしていく
C D C D C D E C D A C E G A

そのひとみがそのことばが
G A C D E A G A C D E

うそでもそれは完全なアイ
D E C D A C G A A G A

このサビのキーはC(Am)となります。使えるペンタトニックスケールはCメジャーペンタトニックスケール、およびAマイナーペンタトニックスケールです。つまり、CDEGA。この五つに当てはまらない音、つまりは「4と7」にマーカーをつけてみると…

だれもがめをうばわれてく
E G A E A G A E A G A

きみは完璧で究きょくのアイドル
E G A C B G A B C D F E

金輪際あらわれない
A E A G A E A G A

いち番星の生まれ変わり
E G A C B G A A G A

Ahそのえがおで あいしてるで
CA G A C D E A G A C D E A

だれもかれもとりこにしていく
C D C D C D E C D A C E G A

そのひとみがそのことばが
G A C D E A G A C D E

うそでもそれは完全なアイ
D E C D A C G A A G A

めちゃくちゃ少ない!

そう。「アイドル」のサビはほとんどがペンタトニックスケールで構成されていて、4と7が使われているのはほんのごく一部です。

非常にキャッチーな楽曲が多いYOASOBIですが、キャッチーさの秘訣まず一つめは、このペンタトニックへの躊躇のなさです。

ペンタトニックスケールは、使いやすい反面、先述のように初心者でもアドリブが取れるようなスケールですので、ともするとダサいフレーズができがちです。意図せずに民族音楽のようなニュアンスが出てしまうことさえあります。

ちょっと作曲ができるようになると、だいたいの人は「4と7」 の扱いにも慣れてくるので、「脱ペンタ」しようとします。しかし、それを行ってしまうことで今度はこねくり回した感じになり、キャッチーさを失ってしまうのです。

しかしYOASOBIの場合、結局ペンタトニック一本勝負がみんな好きだからまっすぐそれを突き通すぜ、という気概が凄まじいです。ダサく聞こえることを躊躇わないというのと、それを回避するためのサウンド面での作り込み、そして、本来歌うのが難しい、作り込んだペンタトニックのメロディを歌いこなすikuraちゃんの技量などがそれを実現しています。

さらに、キャッチーさの秘訣二つめ。ここぞの「4と7」です。みなさんはもし「アイドル」という曲を作ることになり、このサビの詞を与えられたら、どこを最も聴かせたいと思うでしょうか?当然、「君は完璧で究極のアイドル」、もっと言えば「アイドル」でしょう。その部分の音の配置を見てみましょう。

きみは完璧で究きょくのアイドル
E G A C B G A B C D F E

サビ中4回しか出てこない「4と7」がここに3回も出てきています。YOASOBIもといAyaseさんの創作の傾向として、ペンタトニックへのためらいのなさと、ここぞというところでペンタトニックを回避して印象付けるテクニックがあります。

先述のように、「4と7」は、その強烈さゆえに、とくに即興演奏では回避され、ポピュラー音楽の文脈の中でのペンタトニックスケールが出来上がったのでした。逆に言えば、うまく使えば「4と7」は強烈な印象を聞き手に与えるということです。

このサビの一つのピークである「アイドル」というフレーズには、「4→3」というクラシックの時代から重宝される半音の結びつきが割り当てられています。しかもこの4が最高音です。サビの重心の作り方がうますぎる…

ただ音を当てられればいいという発想ではなく、どこを聴かせたいか、全体としてキャッチーにするにはどうすればいいかという計画が見て取れます。

YOASOBIのエッセンスは、とにもかくにも①躊躇ないペンタトニック②ここぞでのちょっとした「4と7」なのです。

まとめ

YOASOBI「アイドル」の魅力を音楽理論で解説してきました。

紹介したテクニックは比較的実践するのが容易かとおもいますので、ぜひ自分の作曲や、自分がいいと思う楽曲の分析に活かしてみてくださいね。

ペンタトニックは初心者向け、と思っていると、足元を掬われますよ…

それでは、良い音楽ライフを!

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