ウルフルズ「ガッツだぜ!!」の魅力を音楽理論で解説!カギは「二面性」にアリ。
こんにちは。大学で作曲を勉強しており、絶賛卒業制作に追い込まれ中の加藤龍太郎です。現役アーティストが教える音楽教室「コロイデア音楽塾」にて音楽理論レッスンを開講中、また同教室のオンラインサロンにおいて音楽理論解説コンテンツ「度数塾」を配信しています。
先日、同じくコロイデア音楽塾の講師であるギター伊藤さんとの「スーツとボーズ」というユニットでウルフルズの「ガッツだぜ!」をカバーいたしました。
令和も5年目に差し掛かろうとしているなか、ボーズの伊藤さんのウルフルズが好きという声でこの選曲となりましたが、小さい頃にテレビでただ聞いていた頃とは違い、音楽理論を学んでから触れると、色々な楽曲の面白さに気づくこともあり…
ということで、本記事では「ガッツだぜ!!」の魅力を音楽理論の面から解説していきたいと思います!
「ガッツだぜ!」の魅力
コミカルで素敵なMVですね。平成特有の、何となく未来を楽観視している感じが良いです。今のJPOPには中々無い成分を摂取できます。でもただコミカルなだけではありません。サビでは自然とコールアンドレスポンスしたくなるような、何かこうグっと巻き込む力を感じます。
さて、「ガッツだぜ!!」の魅力ですが、まさにこの二面性ではないでしょうか。つまり、軽妙なコミカルさと、拳を上げたくなるかっこよさの両立です。
クラスのお調子者が体育祭とかでマジになってるのをみて、普段より真面目なやつの1.5倍はカッコよく見えるあの感じですね。
この二面性のかっこよさを、音楽理論的にひも解いてみましょう!
「ガッツだぜ!」コードの分析
※この章はある程度音楽に長けている方は読み飛ばしていただいて構いません。音楽理論が分かり始めている方向けに少し丁寧目に音楽理論の解説を行っています。
※初心者の方は過去のレクチャー記事をご参照ください。読んでいる暇がないよという方も読み飛ばしてOKです。
さて、魅力を音楽理論的に解き明かすために、ガッツだぜ!!のコードをワンコーラス分追いかけ、なおかつダイアトニックコードの考え方を用いてキーを判定してみましょう。
【イントロ】
E7sus4→E7→ ×3
E7sus4→A→A#dim→
【サビ】
Bm7→G→
Em7→A→A#dim→
×2
【間奏】
Bm→E7→ ×2
【Aメロ】
B→E7→ ×4
【Bメロ】
C#m→B→×3
C#m→F#→
【サビ(上に同じ)】
さて、まずイントロから。「ほとんどの曲はⅠかⅣ(たまにⅡmに置き換わる)かⅥmから始まる」という法則を元にキーを判定したいのですが、イントロでは「E7sus4→E7→」という動きがひたすら繰り返されています。
何やら複雑なことをやっているようにも見えますが、構成音を冷静に見てみると、
E7sus4→ E,A,B,D
E7 → E,G#,B,D
となっており、太字にしたところが半音で上下しているだけ、ということがわかります。sus4とメジャーの行き来に短7度がくっついているだけです。sus4とメジャーの行き来というのは、あくまでメジャーの中でゆるやか動きだけを作りたいときに使う技ですので、実質ここのコード進行は「E7の大きな塊」として見ることができます。
しかし、E7は「Ⅰ、Ⅳ、Ⅵm」のどれにも当てはまりません。ⅠもⅣも、Ⅰ7,Ⅳ7となっると、ダイアトニックコードではなくなってしまうからです。ブルース進行を用いた曲の場合に最初のコードはⅠ7となりますが、聞いた感じもコードの並びを見た感じも、ブルース進行ではなさそうです。
「ガッツだぜ!!」はイントロではまだ明確なキーが示されていないということになります。頭サビの曲にはよくあることです。
では、ひとまずイントロは置いておき、サビを見てみましょう。サビの頭がダイアトニックコードから外れているということは、ほとんどありませんからね。
Bm→G→Em7→A→A#dim→
頭のコードはBmです。「Ⅰ、Ⅳ、Ⅵm」のうち、幸いにもマイナーはⅥmだけですから、BmがⅥmと見て大丈夫そうです。さて、その条件に当てはまるキーは…
キー:D(Bm)ですね。
その前提のもとコード進行をローマ数字に読み替えると…
Ⅵm→Ⅳ→Ⅱm7→Ⅴ→Ⅴ#dim→
となります。確かに無理なく読めるコード進行になっていますし、やはりキーはD(Bm)でよさそうです。
さて、サビのキーがわかったところで、間奏を見てみましょう。
Bm→E7→
これをローマ数字に変換すると、
Ⅵm→Ⅱ7→
となります。ⅥmとⅡ7の行き来は、こうしたファンクっぽい楽曲でしばしば行われる動きです。ギターで二つを行き来してカッティングしてるだけで手軽に楽しい気分になれるのでオススメ。
さて、どんどん行きましょう。Aメロ、Bメロです。
B→E7→ ×4
C#m→B ×3…
こちらをキーDでローマ数字にすると、
Ⅵ→Ⅱ7→ ×4
Ⅶm→Ⅵ→ ×3 …
……あれ?
ノンダイアトニックコード(太字)がこんなに頻繁に出てきて繰り返されるのはちょっとおかしいですね…。Ⅵはともかく、Ⅶmなんてあまり目にしないコードです。ダイアトニックコードに7番目の音を主音とするコードが現れるときはⅦdimですからね。
さて、実はここが今回解説したい「ガッツだぜ!」のポイントにもつながります。
あるキーを定めて、それで分析がおかしくなり始めたら、転調のサインです。キーが変わっているんですね。改めて候補を探しましょう。
B→E7→ ×4
C#m→B ×3…
「Ⅰ,Ⅳ,Ⅵm」のどれかから始まるとして、試しにBがⅠのパターン、Ⅳのパターンでそれぞれローマ数字化してみます。
Ⅰ→Ⅳ7→ ×4
Ⅱm→Ⅰ ×3
Ⅳ→Ⅶ7→ ×4
Vm→Ⅳ→ ×3
BをⅣとしてしまうと、これまた使用頻度の低いⅦ7なんてコードが頻繁に出てきてしまうことになりますので、ここではBはⅠとなっていると言えそうです。
BメロがⅡm始まりのループをしているのが引っ掛かるかもしれませんが、ⅣはⅡmに置き換えることが可能で、逆も然りですから、それを適用してみると
Ⅰ→Ⅳ7→ ×4
Ⅳ→Ⅰ→ ×3…
となり、非常に受け入れやすいコード進行になりました。
Ⅳ7は先述した「ブルース」でよく見られるコードです。AメロはⅠとⅣ7の行き来なので、疑似的なブルースと言えるかもしれません。確かにAメロの軽妙な感じはブルースとも通ずる部分アリです。
よって、Aメロ、Bメロはキー:B(G#m)と言えます。そしてサビではまたキー:D
(Bm)に戻ります。
キーB(G#m)とキーD(Bm)、二つを並べて何か気づくことはないでしょうか?
そう。主音のBは共通のまま、マイナーとメジャーが切り替わっているのです!
このように、主音が共通のまま、マイナーとメジャーだけが切り替わる転調を、「同主転調」と言います。
同主転調による「二面性」
「ガッツだぜ!!」の、軽妙な明るさと男らしさ、かっこよさを両立した雰囲気には、「同主転調」が大きく関わっています。
同主転調とはその名の通り、数ある転調の中でも、「主音が共通で、メジャーとマイナーが切り替わる転調」のこと。
Cメジャースケールの構成音→C,D,E,F,G,A,B
Cマイナースケールの構成音→C,D,E♭,F,G,A♭,B♭
例えば、上に挙げたのは主音がCの二種類のスケールですが、ご覧のようにメジャースケールから3番目、6番目、7番目の音が♭になると、Cが主音のマイナースケールに変わります。
少し音楽をかじった方ならご存じの通り、メジャースケールを使ったメロディは明るい/軽い/かわいい感じ、マイナースケールを使ったメロディは暗い/重い/かっこいい感じがしますが、同主転調を用いると、使う音域をほとんど動かさずに雰囲気だけをガラっと変えることができるのです。キーC(Am)の場合は、キーE♭(Cm)への転調となりますね。
良くある同主転調は、メジャーで進行している曲がほんの一部分マイナーに同主転調し、その部分だけ雰囲気が少し変わる、といったもの。こういった使い方の場合は転調というよりも、マイナーからコードを借りてきているという意味で「借用」と言ったりもします。
同主転調が長尺で行われることは珍しいです。しかし「ガッツだぜ!!」は大胆にも、
イントロ→E7のみ(Bメジャー、Bマイナーどちらの可能性もある)
サビ→Bマイナー
Aメロ、Bメロ→Bメジャー
サビ→Bマイナー
と、かなり大きなくくりでの同主転調を行っているのです。
これが、軽妙で明るい平ウタと、男らしくカッコいいサビの両立の秘訣。
さらに、Ⅱ7もしくはⅣ7としてどちらにも適応可能なコードであるE7を頻繁に聴かせることで統一感を持たせたり、マイナーになるところの前にはA→A#dim、すなわちⅤ→Ⅴ#dimという、Ⅵmを強く導く半音進行を配置し、急すぎる移り変わりがないようにきちんとブリッジを置いていたりと、両者を上手く馴染ませる工夫も数多くあります。
もし「ガッツだぜ!!」がBメジャーだけを用いた楽曲だったらおちゃらけただけの歌になってしまうでしょうし、Bマイナー(Dメジャー)だけを用いた楽曲だったらシリアス過ぎる雰囲気になってしまうでしょう。
また、同主転調には、「コードを激しく動かさずに曲の起伏を作れる」というメリットもあります。曲を作るという作業はそもそも起伏を如何に演出するかを決めるということなのですが、転調を用いずにマイナーの雰囲気とメジャーの雰囲気の切替を行うとなると、どうしてもコードの動きを激しくせざるを得ません。また、メロディラインもそれに伴い複雑になってきてしまいます。
少し難しい話ですが、「Bマイナースケールのダイアトニックコード」を考えた場合、BmはⅠmとなり、一番安定するコードと見ることが出来ます。Bメジャーで一番安定するB、Bマイナーで一番安定するBmの周りからほとんど動かず、しかし全体で見れば起伏ができているというのは、同主転調のなせる業。
「ガッツだぜ!!」のような、ブラックミュージックが根底にあるような曲の場合、極力コードの動きはシンプルに、安定するⅠのコードから動かないようにした方が「ぽく」なりますし、なにより演奏しやすい!
テクニカルな技を沢山使うJPOPも好きですが、やっぱり演奏する楽しみが大きいのはブラックミュージックの方ですね。
「スーツとボーズ」の演奏では…
さて、我々二人も、そんな同主転調によって組み立てられたとっても演奏しやすい進行にあやかって、色々なアドリブをやらせていただいております。
「ガッツだぜ!!」は上にも述べたように、マイナーの雰囲気とメジャーの雰囲気が上手く馴染んでいる楽曲。こうした曲の場合、「メジャーキーでマイナーキーのフレーズをちょろっと弾く」というアドリブが成立するのです。それで挟んでみたのがこちら。https://youtu.be/pYdTpxTNjOw?t=100
2番のAメロはキーがBメジャーですが、Bマイナーペンタトニックスケールのフレーズを合いの手でちょっと挟んでみました。我ながら気に入っております。
また、お気づきの方もいるかもしれませんが、この演奏ではかなり原曲をいじって、サビ前に謎のダサカッコいいキメが入っています。https://youtu.be/pYdTpxTNjOw?t=65
ここは思いっきりBマイナーペンタトニックスケールのフレーズを入れて、「マイナーになった感」を強く演出しているところです。
やっぱりブラックミュージックはこういうベタな表現を沢山できるので楽しいですね。スタイリッシュさはちょっと置いといて。
まとめ
さて、本記事では、「ガッツだぜ!!」の魅力を音楽理論の面から解き明かしてみました。
軽妙さとカッコよさの両立。その秘訣は、主音が変わらずメジャーとマイナーだけが切り替わる「同主転調」を大胆な尺で使っていること。
特に「シリアスになりすぎる…」「明るくなりすぎる…」といった悩みは少し作曲に慣れて自分の表現したい雰囲気が分かってくると出てくる悩みなので、是非行き詰まったら試してみては如何でしょうか?
また、もっとスーツとボーズのセッションが見たい!と思っていただけた方は伊藤さんのYoutubeチャンネルのチェックを、もっと音楽理論を詳しく知りたい!と思った方は私の過去記事を読んでいただけるか、コロイデア音楽塾にて私のレッスンを受講していただけると大変嬉しいです!
では、良い音楽ライフを!
スーツとボーズが講師を務めるコロイデア音楽塾のオンラインサロンはこちら!