Vaundy「怪獣の花唄」コード進行をダイアトニックコードを使って分析!
いとうこっそりくらぶの原曲破壊アレンジも今回は控えめですね。派手なタイアップなどはなかったですが、根強い人気の本楽曲。
ぜひ本記事の解説を読んで、曲への理解を深め、演奏や作曲に活かしていただければと思います!
原曲はこちら。
「ダイアトニックコードって何?」「なんで分析にダイアトニックコードを使うの?」という方はぜひこちらの記事も読んでください。
ダイアトニックコードで楽曲分析
Aメロ
G6(9)→Dadd9/F♯→Dm7/F→Dadd9/F♯ ×2
まずAメロから、キーを判定しながらコード進行を見ていきましょう。
鉄則:「コード進行の括りの頭は、大体ⅠかⅣかⅥm(たまにⅡm)」
以上を考えると、Gはメジャーコードであり、G69はそれに6度と9度が飾りとしてくっついただけのコードですから、ⅠかⅣどちらかになることがわかります。
試しに、G =ⅠつまりキーGとしましょう。すると、コード進行は次のようになります。
Ⅰ6(9)→Ⅴadd9/Ⅶ→Ⅴm7/Ⅶ♭→Ⅴadd9/Ⅶ ×2
となります。不可能なコード進行ではありませんが、Ⅴm7/Ⅶ♭というのが少々苦しいです。Ⅴmとは基本的に、Ⅰ7とセットでⅤm→Ⅰ7と使われるコードですから、このような形でⅤに挟まっている状況には違和感があります。
では、G=Ⅳ、つまりキーDとしましょう。すると、コード進行は次のようになります。
Ⅳ6(9)→Ⅰadd9/Ⅲ→Ⅰm7/Ⅲ♭→Ⅰadd9/Ⅲ ×2
こちらもこちらでひとクセあるように見えます。Ⅰm7/Ⅲ♭というのがなかなか見慣れないコードですね。
ここで、Ⅰm7/Ⅲ♭の効果について学びましょう。
Ⅰmの使い道
さて、Ⅰm7/Ⅲ♭というコードですが、装飾を外し、基本形にすると、Ⅰmとなります。
「怪獣の花唄」はこのⅠmがポイントとなっている楽曲です。ここで、Ⅰmというコードについて解説したいと思います。
Ⅰはダイアトニックコードでは当然メジャーです。それがマイナーになったⅠmはノンダイアトニックコードということになります。
調性音楽においてメジャーの象徴であるⅠがマイナーに変わってしまうと、どんな感じがするでしょうか?想像してみましょう。
…
裏切られた感、とか、意外性、とかの言葉が浮かんできたらセンス○です。明るい響きが暗くなるわけですからね。ちょうど、暗さの象徴であるⅥmが明るくなって意外性をもつⅥやⅥ7の反対の考え方です。
「明るい響きが暗くなった」からと言って、単純な暗さが現れるわけではありません。むしろ、明るさの中に暗さが混じることで、独特の暖かみを持つのがⅠmなのです。
この「意外性×暖かみ」を非常にうまく使っている楽曲がこちら。
30秒あたりから始まるサビ的な部分冒頭のコード進行はこうなっています。
キーF
Ⅳ→Ⅲ→Ⅰm/Ⅲ♭→…
Ⅳ→Ⅲというのは、強くⅥmを導く進行です。Ⅵmが来そう、と脳が認識しているところに、Ⅰmが来る作りになっています。それにより、まず意外性を演出し、Ⅵmの暗さに曲が支配されることを避け、Ⅰの明るさに曲が支配されることも避け、曲に独特な暖かさを持たせています。
さらに、ベースラインに注目すると、
Ⅳ→Ⅲ→Ⅲ♭→…
と、半音ずつ下降しています。これも心地よさを作るポイントです。人間の耳は半音ずつ下がっていくベースラインが好きです。
これ、「怪獣の花唄」にも当てはまりますよね。
キーD
Ⅳ6(9)→Ⅰadd9/Ⅲ→Ⅰm7/Ⅲ♭→Ⅰadd9/Ⅲ ×2
ベースラインは
Ⅳ→Ⅲ→Ⅲ♭→Ⅲ
と、なめらかに動いています。
Ⅰm7/Ⅲ♭の上のメロディは「どこに行ってしまったの」「君に似合うんだよ」ですが、耳で聞くと、確かにここに独特の雰囲気が現れていますよね。
楽曲の構造の面から見ても、このタイミングのⅠmは効果的です。イントロを置かずにいきなり歌いだす楽曲ですが、曲が始まって4小節でⅣ→ⅠでキーDの認識を持たせる+5小節目で意外性×暖かみのⅠmを置くことで聴き手を掴む、といった無駄のない構成がここにはあります。
Aメロではベースラインをあまり動かさずに半音で上下するだけにするというのも、その後のベースラインの動きを際立てるために有効ですね。
「怪獣の花唄」に仕込まれている特異なギミックといえばこのくらいです。これ以降はとてもシンプルなコード進行になります。この潔さも魅力の一つです。
Bメロ
Em7→Dadd9/F♯→
Gadd9→A→
キーDでローマ数字変換するとこうなります。
Ⅱm7→Ⅰadd9/Ⅲ→
Ⅳadd9→Ⅴ→
ザ・Bメロです。
ベースラインに着目すると、
Ⅱ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅴ→
となっており、見事にダイアトニックな音を一つ一つ駆け上がっています。サビに向けて盛り上がっていく感じですね。
Aメロからの繋がりを見ても、とても綺麗です。
Ⅳ→Ⅲ→Ⅲ♭→Ⅲ→Ⅱ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅴ→
サビ
Gadd9→A→Bm→Dadd9/F♯→
Gadd9→A→Bm→D→
Gadd9→A→Bm→Dadd9/F♯→
Gadd9→A→D→
ザ・サビですね。キーDでローマ数字変換します。
Ⅳadd9→Ⅴ→Ⅵm→Ⅰadd9/Ⅲ→
Ⅳadd9→Ⅴ→Ⅵm→Ⅰ→
Ⅳadd9→Ⅴ→Ⅵm→Ⅰadd9/Ⅲ→
Ⅳadd9→Ⅴ→Ⅰ→
456のJPOP進行を微調整した感じになっています。オンコードでないⅠが初めて現れるのがサビの折り返しと終わりという構造もいいですね。ここまでⅠのベースをⅢで鳴らしてきた甲斐があるというか、カタルシスが得られるようになっています。
これ以降も様々展開していきますが、変わったことをしているのはやはりAメロだけで、あとは直球です。
まとめ
Vaundy「怪獣の花唄」のダイアトニックコードによる楽曲分析でした。
Ⅰmの「意外性×暖かみ」、そしてオンコードを効果的に使ったベースラインが光る楽曲でしたね。
定番といえば定番なコード進行ですが、だからこそ職人技が光ります。
普通のことをいかに丁寧にやるか、というのはものづくりにおいて大事ですので、ぜひ「普通だな」と思う曲に対しても、積極的に分析する姿勢で取り組んでみましょう。
では、良き音楽ライフを!
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