フレデリック「オドループ」に学ぶ、魅力的な歌詞の作り方!

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フレデリック「オドループ」に学ぶ、魅力的な歌詞の作り方!

オドループ【いとうこっそりくらぶ|台無しカバー】

こんにちは。加藤龍太郎です。現役アーティストが教える音楽教室「コロイデア音楽塾」にて音楽理論レッスンを開講中、また同教室のオンラインサロンにおいて音楽理論解説コンテンツ「度数塾」を配信しています。

「スーツとボーズ」というユニットで私が共に活動している、超絶ギタリスト伊藤さん率いる超絶バンド、いとうこっそりくらぶの「台無しカバー」シリーズから、フレデリック「オドループ」の音楽理論解説をします。

フレデリック「オドループ」Music Video | Frederic “oddloop”

リフからメロディまで、ちょっと不思議な感じがしてクセになりますよね。

本記事では、特にサビの歌詞に注目して、クセになる感を分析していきたいと思います。

普段は音楽理論による解説を行なっていますが、今回はレア回です。歌詞も音楽を楽しむにはとても大事な要素ですので、要注目!

サビの歌詞の分析

踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らない
踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らないよ
気に入らない夜なんてもう僕は知らない
踊ってない夜がない夜なんて
とってもとっても退屈です

…意味はさておき。メロディをつけずとも、日本語の段階で魅力的なリズムをもっていますよね。一度、国語の授業のごとく音読してみてください。

世の中には「歌詞より曲派or曲より歌詞派」の派閥争いがありますが、私はというと、歌というものは曲と歌詞が一体になってあるべきと思っているので、両方の中間です。

そんな発想はズルでしょうか?

まず、言葉は音色を持ちます。音色、つまり耳触りです。金管楽器の耳触りは、パーンと目が醒める感じ。弦楽器の耳触りはスーっと流れていく、あるいはジャキッと切り裂く感じ…。

「らりるれろ」という声は柔らかい耳触りで、「さしすせそ」という声は鋭い耳触りがしますよね。言葉は音である以上、しっかりと音色があるのです。

さらに、言葉はリズムを持ちます。「かっぱかっぱらった」という短文は、英語にするとKappa stole.ですが、そんな意味には関係なく、「か」「ぱ」「た」の硬い耳触りと、跳ねるようなリズムを全面に感じます。

言葉の持つ音色、リズム。それを全く考えずに、「曲」と「歌詞の意味」を組み合わせて歌にすることもできるのですが、クセになる歌の条件は、「歌詞は音楽の一部」として作っていることだと思います。私たちは子供の時の感覚を今でも忘れておらず、結局言葉遊びと鳥の唐揚げが大好きなのです。

そして、「オドループ」もまさにそういった「言葉遊び」の発想で作られています。もう一度歌詞を見てみてください。

踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らない
踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らないよ
気に入らない夜なんてもう僕は知らない
踊ってない夜がない夜なんて
とってもとっても退屈です

「踊ってない」「夜」「知らない」「気に入らない」で8割がた抑えられるの、すごくないですか?歌詞が思いつかなかったわけではありません。同じ言葉を並び替えて繋げ直すことで、一つ一つの言葉の意味はどんどん軽くなっていき、最終的には音にしか聞こえなくなります。

敢えて意味を完全に消し飛ばしてしまうことで、サビを完全に言葉遊びにしてしまい、私たちの子供の部分を虜にさせているのです。

ここからは、より詳しく、どのように言葉遊びを充実させているのかを見ていきます。

踊ってない夜を知らない

まず、サビの頭のフレーズ。おそらく作曲する時はここから思いつき、この素材でどう言葉遊びができるかということを考えたはずです。

おどってない/よるをしらない
タタンタタン/タタタタタタン

ほんのわずかなフレーズですが、「おどってない/よるをしらない」は誰がどう読んでも「タタンタタン/タタタタタタン」というリズムが現れます。この一行で十分音楽になりうる可能性を秘めているのです。

この、わずかな思いつきから作っていく発想を「モチーフによる展開」などと言ったりします。モチーフ、訳すと動機です。motivationのmotiv。その音楽の存在理由とも言えるでしょう。発展していくには、このモチーフを、音楽の気持ちいい構造に当てはめて活用していくことが必要になります。

さて、音楽における代表的な気持ちいい構造に、「コールアンドレスポンス」というものがあります。呼びかけと応答。呼びかけるフレーズが何かしらあったあとに、それに対する応答が返ってくると言う構造です。

そして、そのコールアンドレスポンスが面白さを生むためには、2回繰り返した上で、「コール」は変えずに、「レスポンス」を少し変化させるという構造が必要です。

音楽で面白さを作るのは「慣れ」と「裏切り」です。「AときたらB」があったとに、「A」がくると、「B」が期待されますが、「Bと見せかけてB’」がくると気持ちいいのです。これを「ABAB’」と呼ぶことにしましょう。

「うっせえうっせえうっせえわ」「あなたが思うより健康です」
「いっさいがっさいぼんような」「あなたにゃ分からないかもね」

「あ、あ、アンパンマン」「やさしいきみは」
「い、け、みんなのゆめ」「まーもるーたーめー」

とかとか…探せばたくさん例が出てきます。

オドループのサビ前半をみてみましょう。

踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らない
踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らないよ

ここまでに、二つの「ABAB’」があることにお気づきでしょうか。まずは小さい単位。

踊ってない夜を(A)知らない(B)
踊ってない夜が(A)気に入らない(B’)

踊ってない夜を(A)知らない(B)
踊ってない夜が
(A)気に入らないよ(B’)

前後半で、それぞれ「ABAB’」があります。そして、もうすこし大きく見ます。

踊ってない夜を知らない(A)
踊ってない夜が気に入らない(B)
踊ってない夜を知らない(A)
踊ってない夜が気に入らないよ(B’)

ここにも「ABAB’」。「踊ってない夜を知らない」という可能性に満ちた一行があるおかげで、ちょちょっと構造のトリックを用いてあげるだけで見事サビの半分が埋まりました。

べつにこれをもう一回繰り返すだけでも曲になります。せっかくなので後半の歌詞を変えて、

踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らない
踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らないよ
回ってないコマはいらない
回ってないコマはいけすかない
回ってないコマはいらない
回ってないコマはいけすかないよ

…どうでしょう?ちょっとそれっぽい。

そんな凡庸なアイデアは置いておき、サビ後半には、一つ面白い仕掛けがあります。

踊ってない夜が気に入らないよ
気に入らない夜なんてもう僕は知らない

「気に入らないよ」というのは、先ほど出てきた「ABAB’」の都合で出てきた、言わば元は想定していなかったフレーズです。

サビの後半では、大胆にも1小節の空白があった後で、元は想定しておらずたまたま現れた「気に入らない」を全く同じ音で使い直しているのです。

これもまた、モチーフによる展開です。初めのモチーフを展開した結果、都合で出てきてしまったものをまた別のモチーフとして使う。根拠自体が変わるわけですから、それなりに驚きの効果を生みます。「回ってないコマ」が来てその先の展開が予想できてしまうよりもはるかに音楽的です。

さらに…

気に入らないよ+
るなんてもう/ぼくはしらない
タタンタタン/タタタタタタン

おどってない/よるをしらない
タタンタタン/タタタタタタン

ここ芸術的です。「気に入らないよ」で遊んで、そのフレーズが「気に入らない夜」に変化したかと思えば、じつは「気に入らないよ+るなんて〜」というふうに分割できて、「るなんてもうぼくはしらない」では一番最初のモチーフが帰ってきている

これによって、遊んだあとでも統一感が生まれ、サビの後半の後半でまた「踊ってない夜がない夜なんて」と言い直せるわけです。

そして、音楽において大切なのは、「きちんと終わる」こと。例えばこのサビがまた「踊ってない夜を知らない」で音だけ変えて終わっていた場合、まあ確かに統一感は出ますが、また何か展開するのかな?と身構えてしまいます。「終わった」と認識できず、その後の展開を聞くモードにならない。

とってもとっても退屈です

これは曲を通して初めて出てくるモチーフになっていて、リズム歌詞共に明らかに異質です。明らかに異質で、しかし音としての収まりはいい存在を最後に配置することで、「終わりましたよ」を示しているのです。

ここまでを踏まえて、「オドループ」の歌詞をもう一度味わってみましょう。

踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らない
踊ってない夜を知らない
踊ってない夜が気に入らないよ
気に入らない夜なんてもう僕は知らない
踊ってない夜がない夜なんて
とってもとっても退屈です

まとめ

いかがだったでしょうか?

普段は音楽理論による解説が主ですが、今回は初めて「歌詞」に強く焦点を当ててみました。

歌詞を単なる情報、曲の付属物として見るのではなく、そのものの面白さに着目できると、音楽ライフがまた一つ充実するでしょう。

ぜひ、お気に入りの曲の歌詞の面白さを見つけてみてください。

それでは、良い音楽ライフを!

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