ダイアトニックコード楽曲分析のススメ
こんにちは。加藤龍太郎です。現役アーティストが教える音楽教室「コロイデア音楽塾」にて音楽理論レッスンを開講中、また同教室のオンラインサロンにおいて音楽理論解説コンテンツ「度数塾」を配信しています。
「スーツとボーズ」というユニットで私が共に活動している、超絶ギタリスト伊藤さん率いる超絶バンド、いとうこっそりくらぶの「ギリギリ演奏」シリーズの楽曲をダイアトニックコードで分析するシリーズを連載しております。
そちらのシリーズでは、当然のようにダイアトニックコードという考え方を使って毎度毎度分析しているのですが…
「なんでダイアトニックコードで楽曲分析するの?」「そもそもダイアトニックコードって何?」
おっしゃる通りでございます。
本記事では、こういった疑問を解決していきます。これを読んでから他の楽曲解説記事を読んでいただくことで効果三倍増ですので、ぜひ一度目を通してみてください。
音楽塾の先生が教えるオンラインサロン!
そもそも、ダイアトニックコードって何?
音楽理論を少し勉強すると出てくる、と同時に、初心者にとって一つの大きな壁となるダイアトニックコードという概念。
そもそも、その定義はなんでしょうか?なんとなくは理解していても、すらすら説明しろと言われると、なかなか難しいものがありますよね。
試しに、chatGPTに聞いてみました。
ダイアトニックコードとは、特定の音階に含まれる、その音階の調性に基づいた7つの和音のことを指します。例えば、Cメジャーの場合、C、Dm、Em、F、G、Am、Bdimの7つの和音がダイアトニックコードになります。ダイアトニックコードは、和声進行や曲の構成など、音楽理論において基本的な概念の一つであり、音楽を作る上で重要な要素となっています。
だそうです。
特定の音階に含まれる、その音階の調性に基づいた7つの和音。なかなか噛み砕くのが難しいですが、これを一つ一つ解読していく方向で進めてみましょう。
音階とは
音階。結構頻繁に耳にする音楽理論用語です。
音階とは何か。ひとことで言い表すならば、
音階…ある基準の音からその1オクターブ上の音までの音の並び方
となります。オクターブについても一応説明しておきます。
オクターブ…音高が異なるが音名が同じであるという関係。
例)C,D,E,F,G,A,B,Cと順番に高くなっていく際の、最初と最後のC。
1オクターブの間にどのように音を並べるかというのが音階です。つまりは、「並び方に名前がついている」のです。
音階は英語ではスケールといい、音の並び方に名前をつけるとき、多くの場合〇〇スケールといいます。
敢えて一番有名ではない音階(スケール)の例をいくつか挙げてみます。
Dと1オクターブ上のDの間の…
D,E,F,G,A,B,C,D
という並び方=音階:Dドリアンスケール
D,E♭,F,G,A,B♭,C,D
という並び方=音階:Dフリジアンスケール
D,F,G,A,C,D
という並び方=音階:Dマイナーペンタトニックスケール
音階(スケール)すなわち並び方であるということは理解していただけましたか?
さて、音階の名前の付け方にはある規則があります。
(基準の音名)+(スケールの種類)
です。「Dドリアンスケール」とは、「Dが基準のドリアンスケール」という意味です。このスケールの種類の見分け方はかなり難しいのでこの記事では省略しますが、簡単にいうと、音と音の間隔が関わっています。
ここまで覚えてもらった上で、「ダイアトニックコードとは何か」に立ち返ってみましょう。
特定の音階に含まれる、その音階の調性に基づいた7つの和音。
次に出てくるワードが調性ですね。こちらについて、音階の話も交えながら解説していきます。
調性とは
調性、というとなかなか馴染みがない言葉ですが、「キー」なら聞いたことがあるという方は多いのではないでしょうか?そう。カラオケとかで耳にする「キー」です。
調性=キーとは一体何を指すのでしょうか。
ここで、一度音階の話に戻します。そもそも、なぜ音階なんてものを用意する必要があるのか?
別に音の並べ方がただ単に示されていたって、こちらとしては何も嬉しいことはないです。実用性がないと意味がありませんね。
ここで、一つヒントになるのが、絵を描く時につかうパレットです。
パレットは、画家があらかじめ「この絵はこういう雰囲気にしたいからこういう色を使うだろうな」と、あらかじめ絵の具を並べておくためのもの。
並べておく…音階に何やら似ています。そう。音階は、「◯◯な雰囲気のメロディを作りたいから、こういう音階を使えばいいな」というように、何かしらの雰囲気を表現するための音の並び方、言わばメロディのパレットなのです。
ただ名前がついているだけではなく、きちんとそれぞれに特有の雰囲気があるから、それぞれに名前がついているのです。
例えば、ドリアンスケールは西洋の昔話のような雰囲気、ニロ抜き音階は沖縄の雰囲気を醸し出します。ここに紹介する動画のように、音階はたくさんの種類があり、その一つ一つに特有の雰囲気があるのです。
音は無数にありますが、音階に従ってメロディを作っておけば手軽にある雰囲気をもったメロディが作れるわけです。
やったー作曲簡単じゃん!…とはなりませんよね。
音楽を作るには多くの場合メロディの他に、コード、 ベース、リズムが必要になります。また、ある一部分のメロディだけを考えていても曲にはなりません。様々な展開があって、その全体として曲が成り立っています。
音階の「パレット」的な考え方を、「コード」ひいては「曲全体」にも広げたのが調性=キーという概念になります。
ここでは敢えて難し目の日本語を使ってみますが、「キー◯の曲ではこの音とこの音と…この音が適合度が高い、その他の音は適合度が低いのでスパイス的に敢えて使う」といったような考え方をします。例えば、キーGのケースではこんな感じ。
キーG:
適合度が高いスケール
→Gメジャースケール、Eマイナースケール、Aドリアンスケール…
適合度が高いコード
→G,Am,Bm,C,D,Em,F♯dim
適合度が高いキー
→D,C,Gm,E
もっと分かりやすく言い換えると、「キーG」とは「Gの音を中心にして動いていく」という意味。キーとは中心の音を示すものなのです。中心の音を示すことで、自然と適合しやすいスケールやコードなどあらゆる音楽的要素が周りにわたがしのように集まってくるイメージ。
音楽というのは、ものすごく抽象的にいうと「中心から離れたり戻ったり、中心自体が動いたり、その繰り返しを楽しむもの」です。わたがしの中心から外側の距離をいかにうまく使うか。それを考えるためには当然わたがしの存在根拠である芯が必要になります。キーを指定するときには、その芯の音が何かをそのまま使います。
ある音の周りに、スケールやコードの、わたがし状のパレットができている。それをひっくるめてキーと呼びます。C中心のわたがしパレットはキーC、G中心のわたがしパレットはキーGです。
カラオケでキーを操作するとき、芯となる高さをずらすことで、その周りについているメロディ、コードの高さも丸ごとずれる。そのことによって、気持ちよく歌える高さが見つかるのです。
そして、このキーという概念ですが、ある音階(スケール)と密接に結びついています。それが、先ほど音階のところでは敢えて説明しなかった、「メジャースケール」です。
「Cが基準」の「メジャースケール」=Cメジャースケール
C,D,E,F,G,A,B,(C)
ここで例に挙げたCメジャースケール。一番有名な言い方をすると、「ドレミファソラシド」です。義務教育で習いますし、音楽を専門にしていない人でもなんとなく口ずさめるスケールです。
なぜ、ドリアンスケールやフリジアンスケールは口ずさめる人が少ないのに、メジャースケールはパッと口ずさめる人がほとんどなのか?
それは、ほとんどの曲がメジャースケールからできているからです。ほとんどの曲がメジャースケールから出来上がっているので、その基礎であるドレミファソラシドは音楽の授業を通して意識的にも無意識的にもインプットされるのです。
先ほど上で「音階で雰囲気を作れる」なんて言い方をしましたが、思えば、「西洋のおとぎ話風」「沖縄風」が求められる場面なんて、相当限られていますよね?
メジャースケールは、それを聞いて「あ、メジャースケールの雰囲気がするな」など、いちいち思わないぐらいに全世界で「普通」なのです。
「キー」は、かつてのヨーロッパで、メジャースケールが音楽における「普通」になった頃に生まれた概念です。そしてその「普通」は今や全世界に広がって、ポップスもジャズも、結局のところメジャースケールを素材に作られている。だから「キー」が今でも問題なくシステムとして機能していて、今でもメジャースケールと固く結びついているのです。
キー=調性をもとにした音楽は、そのまま「調性音楽」と呼ばれています。調性を使うということは、ここまで見てきたように、パレットを使うことと同義です。20世紀以降のクラシック界では、
キーによって指定されるのは、「メジャースケールの中心音」。この曲のキーはG、と言われれば、「この曲にもっとも適応するスケールはGメジャースケールですよ」という意味になります。Gドリアンスケールでも、G琉球音階でもありません。
ここで中級者向けの余談。キーを表記するときには、「キーG(Em)」「キーC(Am)」といったように、「音名が二つ前の音のマイナー」とセットで表記することが多いです。
ためしに、あるメジャースケールの最後の2音を切り取って、そのまま頭にくっつけてみてください。
F,G,A,B♭,C,D,E→ D,E,F,G,A,B♭C
見事、Fメジャースケールの音をそのまま使って、Dマイナースケールを作ることができました。
メジャースケールは、二個前の音が基準のマイナースケールと、構成音が同じなのです。
そのため、カッコを付けてセットで書かれることがある。豆知識でした。
さて、ここまでで、「音階」「調性」について解説してきました。ここまでが理解できれば、本丸である「ダイアトニックコード」の理解は早いです!
ダイアトニックコードとは
特定の音階に含まれる、その音階の調性に基づいた7つの和音。
さっきまでは完全なる謎だったこの字面の意味が、なんとなくつかめてきましたね。
ここでも大事なのがパレットの発想です。キーCで考えてみます。
キーCとは、「Cメジャースケールが最も適合しますよ」という意味でした。そしてスケールとはメロディを作るためのパレットです。音楽は、メロディだけでなく、コードやベースに支えられています。ベースとは、実はコードの一番下を指しているに過ぎないので、実質、メロディ以外の音の要素とは、コードに集約されます。
「メロディが乗っかるコードをいかにパレット的に扱えるようにするか」…それが、ダイアトニックコードの発想の原点です。
しかし、適合度の高いスケールがわかっているんだから、それを使えば簡単にコードも導き出せそうですよね?メジャースケールからメロディが作られているのであれば、メジャースケールからコードを作ってやればいいのです。
メジャースケールからどのようにコードを作るのか。結論。「一個飛ばしで重ねるだけ」です。なぜ一個飛ばしなのか。一個飛ばしの方が耳にとって気持ちいいから、という説明で十分です。
Cメジャースケールからコードを作りたい!
→
G,A,B,C,D,E,F
E,F,G,A,B,C,D
C,D,E,F,G,A,B
①②③④⑤⑥⑦
まず、基準となるメジャースケールを用意します。
次に、一個飛ばした音(Cの場合、E)から、基準のスケール内の音を並べて書きます。
次に、また一個飛ばした音(CからE、EからG)から、基準のスケール内の音を並べて書きます。
縦に積み重ねた3つの音をまとめてコードとします。
これで、7個のコードができあがります。このコードの並び、キーCのダイアトニックコードは、キーCにとって適合度が高いコードを、パレットにとったものなのです。
そして、この7種類の書き方には決まりがあります。メジャースケールの何番目の音がルート(最低音)のコードか、そしてそのコードの種類は何か、を同時に示す書き方です。
Ⅰ,Ⅱm,Ⅲm,Ⅳ,Ⅴ,Ⅵm,Ⅶdim
これはおいおい覚えれば大丈夫です。「145がメジャー」「236がマイナー」「7がディミニッシュ」と区切っておくとわかりやすいでしょう。
もちろん、例えばメジャースケール2番目の音がルートで、コードの種類がメジャー、というのもあり得ます。キーCにおいてはDはⅡ、と表記されます。他の数字にもたくさんあります。
こういった、「ダイアトニックではないコード」をそのまま「ノンダイアトニックコード」といいます。
ノンダイアトニックコードはキーへの適合度が低いので使わない、ということでしょうか?いいえ、適合度が低いからこそ使い道があるのです。
赤中心の色合いの絵の中に、一箇所だけ青が混じっていたらいいアクセントになりますよね。芸術には「外し」が必要なのです。
この「外し」つまりはノンダイアトニックコードは、わたがし状パレットの外側です。中心音が示され、その近縁にはメジャースケールとダイアトニックコードがあり、外れたところには適合度の低いスケール(アウト、とか言ったりします)、ノンダイアトニックコードがあるのです。
ダイアトニックコードとは、特定の音階に含まれる、その音階の調性に基づいた7つの和音のことを指します。例えば、Cメジャーの場合、C、Dm、Em、F、G、Am、Bdimの7つの和音がダイアトニックコードになります。ダイアトニックコードは、和声進行や曲の構成など、音楽理論において基本的な概念の一つであり、音楽を作る上で重要な要素となっています。
ここまでくれば、晴れて、この文面が理解できましたね!
なぜ楽曲分析にダイアトニックコードを用いるのか
この記事は「ダイアトニックコード楽曲分析のススメ」ですから、ダイアトニックコードで楽曲分析をすることの意味を最後にお伝えしたいと思います。
とはいいつつ、ここまで読んでいればほとんどお分かりなのではないでしょうか。
ダイアトニックコードをパレットとしてコード進行が描かれているからです。
そして、コード進行こそが曲の展開にとって最も重要な部分だからです。
もちろん、曲の要素において、コード進行が全てではありません。最終的な魅力を決めるのはメロディやリズム、音色など、より細部の部分です。
しかし、それらが楽曲の肉とするならば、コード進行は骨。曲自体のもつ大きな動きを確定させるのがコード進行なのです。そしてその大きな動きとは、「キーへの適合度」の操作によって作られています。
パレットから適合度の高いコードを適合度の高い順番で並べる。ちょっと、適合度の低い順番に変えてみる。たまに、そもそも適合度の低いコードを持ってきてスパイスにする…といった操作で、楽曲の大きな動きはできているのです。
そしてその大きな動きを理解するということが、音楽の演奏、作曲に、大いに役立ってくるのです。音楽とは大きな時間を操ること。その視点を持つために、コード進行の理解、つまりは、ダイアトニックコードによる分析が必要になってくるのです。
音楽の初心者から中級者、上級者への道は、必ずや、ダイアトニックコードが開いてくれると言っても、過言ではありません。
まずは、こちらの早見表をダウンロードして印刷、机に貼るところから始めてみてくださいね。
https://www.aki-f.com/dl/item.php?id=diatonic
まとめ
いかがだったでしょうか。
ダイアトニックコードの重要性、ここまで語ったら、きっと伝わってくれていることと思われます。
この考え方に慣れるにはともかく数です。いとうこっそりくらぶのカバーと共に、楽しく数多くのダイアトニックコード分析をお届けできたらとおもいますので、ぜひ一緒に頑張っていきましょう。
それでは、良き音楽ライフを!