BUMP OF CHICKEN「天体観測」のコード進行を解説!爽やかさの秘訣はⅣ→Ⅰ
こんにちは。加藤龍太郎です。現役アーティストが教える音楽教室「コロイデア音楽塾」にて音楽理論レッスンを開講中、また同教室のオンラインサロンにおいて音楽理論解説コンテンツ「度数塾」を配信しています。
ユニット「スーツとボーズ」として共に活動をおこなっているギター伊藤さんのバンド「いとうこっそりくらぶ」。何度か一緒に演奏させていただいているのですが、めちゃうま、かつ音楽を楽しんでいる方々です。
そんな彼らですが、「ギリギリ演奏」と評して、JPOPの名曲アレンジを演奏しています。一体何がギリギリなのかは、こちらの動画をご覧ください。
要は、怒られるギリギリという感じです。果たして本当にギリギリで済んでいるかは置いておいて…
今回の記事では、そんなギリギリ演奏にも耐え爽やかな雰囲気を保っている「天体観測」の爽やかさの秘訣について、コード進行の面から解き明かすことを目標に楽曲解説をしていきたいと思います。
コード進行をダイアトニックコードのローマ数字に変換
コード進行をダイアトニックコードの考え方を用いてローマ数字に変換していきます。何をしているのかわからないという方は過去記事をご覧ください。
まずコード進行を書き出します。
Aメロ
D♭→B♭m→A♭→G♭→ ×2
Bメロ
Fm→G♭→A♭→A♭→
E♭m→Fm→G♭→G♭→
サビ
D♭→D♭→B♭m→D♭→
G♭→G♭→B♭m→A♭→
D♭→D♭→G♭→G♭→
E♭m→Fm→G♭→D♭→G♭
キーはD♭(B♭m)なので、それに基づいてローマ数字に変換すると…
Aメロ
Ⅰ→Ⅵm→Ⅴ→Ⅳ→ ×2
Bメロ
Ⅲm→Ⅳ→Ⅴ→Ⅴ→
Ⅱm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅳ→
サビ
Ⅰ→Ⅰ→Ⅵm→Ⅰ→
Ⅳ→Ⅳ→Ⅵm→Ⅴ→
Ⅰ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅳ→
Ⅱm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ
このようになります。
こうしてみると、なかなか特殊な楽曲ですね。「4536進行」「451進行」「1625進行」「6451進行」などなど、「とりあえず使っとけ」的な有名どころの進行が全くと言っていいほど見られません。強いて言えばAメロの「1654」ですが、やはりなかなか珍しいです。
しかし、やはり音楽は統一感が大事ですから、ただ有名どころから外すだけでは技として成立しません。
実は、「有名どころの進行を使わない」にとどまらない、一歩踏み込んだ共通点があるのです。
Ⅴ→ⅠではなくⅣ→Ⅰ
ドミナント、サブドミナント、トニックという三つの言葉をご存知でしょうか。音楽理論を少し勉強すると出会う言葉ですが、「ダイアトニックコード」の概念を理解していれば説明は簡単です。要はコードのローマ数字に音楽上での役割を割り振ったものになります。
時間芸術である音楽を「緊張」「やや緊張」「安定」の三つに大まかに区分し、それぞれにドミナント、サブドミナント、トニックと割り振っています。本当にドミナントを弾いている時に「緊張」しているかは置いておいて、ドミナントの後はトニックが聴きたくなるのが人間の心理であることは確かです。一旦やや違和感があったとしてもこれを受け入れてください。
そして各役割にローマ数字を割り振ると以下のようになります。
ドミナント(緊張)
Ⅴ,Ⅶ,(Ⅲm)
サブドミナント(やや緊張)
Ⅳ,Ⅱm
トニック(安定)
Ⅰ,Ⅵm,(Ⅲm)
ドミナントの親玉はⅤ、サブドミナントの親玉はⅣ、トニックの親玉はⅠです。
ここで、親玉同士のつながりに関して見ていきます。Ⅴ→Ⅰという動きは、終止感、つまり「ここでひと段落ついたのだな」ということを最も強く意識させる動きとなります。
少々高度な話になるのでわからなければ飛ばしてくれて構いませんが、Ⅴのコードは第三音に導音と呼ばれる、Ⅰに強烈に向かいたがる音を内蔵しており、加えてルートの音がⅠの第五音と共通です。Ⅰに強く向かうところとⅠをさりげなく予備できるところ、その両方を兼ね備えているので、ⅤはⅠに向かうと気持ちいいと人間が感じる響きをしているのです。
Ⅴ→Ⅰという進行はその特性からコード進行の区切りを示すのにたびたび使われます。サビ前にⅤをぐーっと引き伸ばしてサビの頭でⅠがドシンとくる、みたいなのは定番です。使うメリットは「わかりやすさ」ですね。
しかし、「わかりやすさ」はいつでもメリットでしょうか?そうではないはずです。展開が読める作品は頭に入ってきやすいですが、やはり飽きは来てしまうもの。特に音楽においては、わかりやすさは油断するとダサさにつながります。
「天体観測」はその「ドシンとしたわかりやすさ」からは遠い、流れていくような爽やかな情緒を持った楽曲ですよね。ここで今一度ローマ数字のコード進行をみてみましょう。
Aメロ
Ⅰ→Ⅵm→Ⅴ→Ⅳ→ ×2
Bメロ
Ⅲm→Ⅳ→Ⅴ→Ⅴ→
Ⅱm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅳ→
サビ
Ⅰ→Ⅰ→Ⅵm→Ⅰ→
Ⅳ→Ⅳ→Ⅵm→Ⅴ→
Ⅰ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅳ→
Ⅱm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ
ほとんどⅤ→Ⅰの進行がありません。サビの折り返しだけですね。代わりになっている進行があるのですが、気付けるでしょうか?
そう。Ⅳ→Ⅰです。サブドミナントの親玉からトニックの親玉、つまり「やや緊張」から「安定」です。「緊張」から「安定」に比べ、落差が少ないんです。
これもわかる人だけついてきてくれれば良い話ですが、ⅣはルートがⅠの第三音にさりげなく向かいたがっていて、第五音がⅠの主音と共通です。Ⅰにさりげなく向かうところと、Ⅰをあからさまに予備しているところが組み合わさっているので、Ⅴよりも少ない落差でⅠに向かうことができます。
端的に言えば、「Ⅴ→Ⅰ」よりも「Ⅳ→Ⅰ」の方が爽やかに楽曲に段をつけることができるのです。
実践例
Ⅰ→Ⅵm→Ⅴ→Ⅰ→
Ⅴ→Ⅴ→Ⅰ→Ⅰ→
上のコード進行をキーEに当てはめてみます。
E→C♯m→B→E→
B→B→E→E→
手元にギターかピアノを用意して弾いてみてください。
…いかがでしょう?個人差はあると思われますが…自分はダサいと思います。
ここで、Ⅴ→Ⅰの部分をⅣ→Ⅰに単純に置き換えてみます。
E→C♯m→A→E→
B→A→E→E→
どうでしょう?いい具合にスタイリッシュになりました。こちらの方がメロディも乗せやすくなります。
Ⅳ→Ⅰのさわやかさ、使いやすさ、ギリギリ演奏にも勝ちます。積極的に使っていきましょう。
まとめ
本記事では、「天体観測」の爽やかさに関して、ダイアトニックコードを用いて分析してみました。
Ⅴ→ⅠではなくⅣ→Ⅰで段を作る。音楽において段をつけるというのはとても大事なことですが、その高低差のコントロールにまで目がいくと作品の幅が広がります。
ぜひ他の曲にも探してみてください。
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