近年、人気のあるバンドにキーボーディストが正式メンバーとして加入しているケースが増えています。キーボードは演奏に厚みや華やかさを加える存在であり、さまざまなジャンルのバンドに需要があるパートですが、楽器を買いたくても「どんなキーボードを使えばいいのか分からない」と悩む方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事ではバンドで使えるおすすめのキーボードや選ぶ時のポイントにくわえて、初心者向けの練習曲などについて詳しく紹介していきます。
キーボードとは
キーボード(Keyboard)とは、名前の通り「鍵盤」を意味する言葉です。そのため、キーボードを楽器の概念でとらえた場合、アップライトピアノやグランドピアノなどのアコースティックな楽器もキーボードに含まれます。しかし、バンドのパートとしてキーボードという言葉を使う場合は、シンセサイザーや電子ピアノなどの電子鍵盤楽器を指すと考えていいでしょう。
中には「キーボードとシンセサイザーの違いが分からない」という方もいると思います。
まず、シンセサイザーは、音を合成したり加工したりすることができる機材のことを指します。そのため、鍵盤がついているシンセサイザーであれば、キーボードとシンセサイザーのどちらの呼び方も正しいということになるのです。
しかし、中にはキーボードがついていないシンセサイザーや、音作りができないキーボードも販売されています。さまざまな種類があるため、自分の好みに合わせたキーボードを選びましょう。
キーボードの種類
・エレクトリック楽器
エレクトリック楽器(電気楽器)とは、楽器内部に音を電気信号に変換する装置が搭載されており、アンプに接続することで音量を増幅できる楽器のことです。電気楽器のシステムを用いた鍵盤楽器は、エレクトリックピアノやクラビネットなどがあります。楽器内部にはアコースティックピアノのように音を出する仕組みがありますが、エレクトリック楽器は音を増幅できるという特徴があります。
・エレクトロニック楽器
エレクトロニック楽器(電子楽器)とは、合成された数多くの音色が内蔵されている楽器を指します。一般的に、バンドで使われるキーボードやシンセサイザーは、こちらのエレクトロニック楽器に含まれます。
また、キーボードの種類によってはサンプリングやレコーディング機能が搭載されているモデルもあるため、楽曲制作でも利用することが可能です。
・MIDIキーボード
MIDIキーボードとは、MIDIという演奏情報を作曲ソフト(DAWソフト)に入力するために使うコントローラーです。パソコンに接続し、作曲ソフトに情報を送信するための機材であるため、MIDIキーボード単体で音を出すことはできません。
パソコンを使用して楽曲製作を行う「DTM(Desk Top Music)」では非常に便利なキーボードであり、作業をスムーズに行うことができます。なお、音源の追加を簡単に行うこともできるため、MIDIキーボードをライブで使用する方もいます。
バンドにおけるキーボードの役割
・バンド演奏の隙間を埋める
バンドにおけるキーボードの役割は、音の隙間を埋めることによって演奏のクオリティを上げることです。
初心者が多いバンドや人数が少ないバンドでは、音が途切れることで演奏に空白ができてしまいがちです。そんな時にキーボードがいると、音の隙間を埋めて曲全体を華やかにすることができます。また、キーボードはドラムやギターと違い、鍵盤を押し続けるだけで音を伸ばすことが可能です。
「音が途切れることで簡素な演奏になってしまう」という悩みがある場合、キーボードは頼もしい存在といえるでしょう。
・バンドにいない楽器の代わりができる
キーボードはさまざまな楽器の音が収録されているものもあるため、バンドにいない楽器の代わりを担当することもあります。例えば、「バンドにサックスを取り入れたい」と考えた場合、サックスが吹ける人を探してメンバーに加入してもらうには、時間も労力も必要です。
しかし、キーボードは管楽器や弦楽器など、さまざまな楽器の音を出すことができるため、必要な楽器の代わりを務めることができます。バンド演奏の幅を広げることができる点は、キーボードの大きな魅力といえるでしょう。
ただし、キーボードで他の楽器の音を出すことはできますが、本当にその楽器で演奏しているように聞こえるためには各楽器の音域や特徴を学ぶ必要があります。各楽器の特徴を研究し、リアルな表現ができるように練習していきましょう。
・曲によってはソロを務めることもある
キーボードはコード弾きなどを行うことで、ギターように曲のベースを支えることもできます。また、ギターが間奏でソロを行うのと同様、キーボードもソロを担当することも可能です。
なお、キーボードは優しい音色を出すことができるため、アップテンポで爽やかな曲でソロを担当することが多い傾向にあります。キーボードはサポート役というイメージを抱く方も多いでしょう。しかし、時には主役にもなれる点もキーボードの魅力です。
バンドで使うキーボードを選ぶ時のポイント
・必要な音色が揃っている
バンドで使うキーボードを選ぶ場合、自分が必要とする種類やクオリティの音色が揃っているものを選ぶことが大切です。キーボードはさまざまな楽器の音を出すことができますが、それぞれのニュアンスを再現している音源がどうか、しっかり確認しましょう。
特に、オルガンやピアノなど、鍵盤楽器の音はこだわって選びたいものです。しっかりとした音を出せる楽器を選ぶことで、練習のモチベーションも上がり、ライブでも盛り上がりやすくなります。まずは使用頻度の高い音色を把握し、実際に試奏したうえで選ぶことをおすすめします。
また、キーボードではさまざまな音色を同時に出す場合もあるため、「最大同時発音数」もチェックしておきましょう。最大同時発音数が少ないと、スプリットなどの機能を使った際に鳴らない音が出てくる場合があるため注意が必要です。
・鍵盤の数
キーボードは、61鍵盤や73鍵盤、88鍵盤などさまざまな鍵盤数のものがあります。そのため、用途によってどの鍵盤数が適しているのかを確認しなければなりません。
バンドでは61鍵盤と88鍵盤のキーボードが多く使われています。鍵盤が多いと音域の幅も広がりますが、鍵盤のタッチ感や重量も重くなる傾向にあります。また、同じメーカーやシリーズでも鍵盤数が違うモデルが発売されている場合もあります。用途に適した鍵盤数のキーボードを選びましょう。
・タッチ感の好み
キーボードの鍵盤を押した時のタッチ感は、好みが分かれるため自分に合ったものを見つけましょう。キーボードのタッチ感は演奏のしやすさにも大きな影響があるので、非常に重要なポイントです。なお、キーボードのタッチ感は以下の3つに分かれています。
- キーボードタッチ
- セミウェイテッド
- ピアノタッチ
キーボードタッチの鍵盤は軽くて押しやすく、重量も軽いのが特徴です。一方、ピアノタッチの鍵盤はピアノ経験者の方にとって弾きやすいかもしれませんが、重量も重くなります。
また、ピアノタッチのキーボードを探す方は88鍵盤のものを選ぶことが多いです。一方、88鍵盤以外のキーボードは、基本的にキーボードタッチかセミウェイテッドになっていることが多い傾向にあります。好みのキーボードを探す際の参考にしてみてください。
・価格
キーボードは、初心者向けのモデルであれば大体5万円程度から購入することが可能です。上限の予算を決めたうえで、価格と必要な機能が見合っているか確認しましょう。
なお、キーボードの価格が下がれば音質や機能性も妥協しなければならない場合があることにくわえて、買い替えが必要になることもあります。
長期目線で見て、故障しにくい高機能なものを買いたい方は、できる限り予算を確保しておくことをおすすめします。
・機能性の高さ
キーボードには、バンド演奏の際に使える機能が搭載されているモデルもあります。例えば、鍵盤の範囲を決めて複数の音色が出るように設定できる「スプリット機能」が搭載されていれば、キーボードを2台用意しなくても、1台で違う楽器の音色を鳴らすことができます。
セッティングや持ち運びの手間も減らすことができることにくわえて、ボリュームのバランスなども保存しておくことが可能です。
そのほか、違う楽器の音色を重ねて演奏することができる「レイヤー機能」などもあります。自分がどんな演奏をしたいのかによって、必要な機能も検討していきましょう。
・持ち運びやすさ
バンドでキーボードを使う場合、スタジオでの練習やライブの際にキーボードを持ち運ぶ必要があります。移動が多い場合は、重量が軽く、運搬が負担にならないサイズのキーボードがおすすめです。
なお、キーボードのサイズや重量は鍵盤数によって異なります。比較的人気のある61~73鍵盤のキーボードであれば、重量は7~9kg程度あります。対応できる音域と持ち運びやすさ、鍵盤のタッチ感などを総合的に考慮したうえで、最適なキーボードを探してみてください。
バンドにおすすめのキーボード5選
・YAMAHA「PSR-E373」(61鍵盤)
YAMAHA「PSR-E373」は、ギターやストリングス、サックスやパーカッションなど、622種類もの多彩で高品質な音色が収録されているキーボードです。メインの音色に他の楽器の音色を重ねることもできるため、自由度の高い演奏ができます。また「スーパーアーティキュレーションライトボイス」を使うことで、その楽器特有の演奏方法を再現することもでき、リアルな表現が可能です。
PSR-E373は左手でコードやルート音を弾くと、そのコードに合わせた音を自動で演奏してくれる「スタイル(自動伴奏)」機能も搭載されています。さらに、鍵盤を弾いた時の強弱を正確に検知する「タッチレスポンス機能」によって、細かなニュアンスを表現できる点も魅力です。
無料アプリの「Rec’n’Share」を使用すると、キーボードとスマートフォンを接続すれば好きな曲に合わせて演奏したり、自分の演奏を録画したりすることもできます。演奏をサポートしてくれる機能が多数搭載されているため、幅広い方におすすめできるキーボードといえるでしょう。
・YAMAHA「CK61」(61鍵盤)
YAMAHA「CK61」は「ステージキーボード」と銘打たれる、ライブでの使用におすすめのキーボードです。ライブで使用頻度が高い機能はすべてフロントパネル上に集約し、それぞれのコントローラーごとに機能をひとつ割り当てられる「One-to-Oneスタイル」を採用しています。
また、キーボード本体にスピーカーが内蔵されており、スピーカーやヘッドホンがなくても自宅で練習することが可能です。88鍵盤仕様の「CK88」もリリースされているため、好みに合わせて選びたい方もぜひチェックしてみてください。
・Roland「FANTOM-06」(61鍵盤)
バンドでの演奏から楽曲製作まで、幅広い機能を搭載したキーボードを探している方にはRoland「FANTOM-06」もおすすめです。約3,000種類以上もの高品質な音源が収録されており、アコースティック楽器が持っている繊細な演奏表現も見事に再現しています。特にこだわりたいアコースティックピアノの音色は、まるで本物のピアノを弾いているかのような表現が可能です。
FANTOM-06には、5インチのタッチパネルがついており、シーケンサー機能やサンプリング機能なども充実しているため、スムーズに楽曲製作を行うことができます。優れた機能を多数搭載しながら軽量化にも成功しており、スタジオやライブ会場への移動が多い方にもおすすめです。
なお、61鍵盤のほかに、76鍵盤の「FANTOM-07」、88鍵盤の「FANTOM-08」も用意されています。必要な音域やタッチ感の好みなどに合わせて鍵盤数を選べる点も、大きな魅力といえるでしょう。
・Roland「JUNO-DS61」(61鍵盤)
Roland「JUNO-DS61」は、重さ5.3kgという軽量設計で、持ち運びの機会が多い方におすすめできるキーボードです。また、電池によって駆動することができるため、ストリートライブなど電源の確保が難しい環境でも使用できます。大きな液晶画面を搭載しており、野外や暗いステージで設定したい場合の視認性に優れている点も魅力です。
さらに、ピアノやオルガンなど、9つのカテゴリーから好きな音色を選択できるため、複雑なセッティングをせずに簡単に操作できます。さらに、Webサイトから音源をダウンロードすれば、音色の追加も簡単に行うことができ、幅広いジャンルに対応することができます。
・Roland「GAIA SH-01」(37鍵盤)
Roland「GAIA SH-01」は、37鍵盤のコンパクトなデザインとなっているため、狭いスペースでも簡単にセッティングできる点が魅力のキーボードです。重さも4.2kgという超軽量ボディのため、どこにでも気軽に持ち運ぶことができます。
また、乾電池による駆動ができ、単3形ニッケル水素電池を8本使用すると、最大5時間の演奏が可能です。持ち運びやセッティングが楽で、電源も不要であるという点は大きな魅力といえるでしょう。
さらに、エフェクトも充実しており、ON/OFFの切り替えだけで最大192パターンもの組み合わせを使えます。コンパクトなデザインでありながら、自由度の高い音作りも実現できる優秀なキーボードです。
バンドでキーボードを始めるために必要な機材
・キーボードスタンド
キーボードを始めるためには、キーボード本体以外にも用意しておきたいものがあります。キーボードを選ぶ時は、以下で紹介する備品もチェックしておきましょう。
まず、キーボードを置くためのキーボードスタンドが必要です。自宅で練習する際にはテーブルの上に置いても問題ありませんが、専用のスタンドがあれば弾きやすい高さに調節することができます。
また、キーボードスタンドにもさまざまな種類があります。最も主流なのはバーが交差しているX字タイプのスタンドです。なお、スタンドのバーが1本の場合と2本の場合がありますが、88鍵盤で重量のあるキーボードを設置するなら、耐荷重の高いバーが2本のスタンドを選びましょう。
・ヘッドホン
キーボードは、基本的に外部スピーカーに接続することで音を出すため、本体だけでは音が出ない場合が多くあります。稀にスピーカーが内蔵されているキーボードもありますが、どこでも音を聴くことができるように、ヘッドホンも準備しておきましょう。
なお、ヘッドホンには長時間の使用でも疲れにくい「オープン型」や、長時間の使用は疲れるが音漏れが少ない「クローズ型」などがあります。実際に店舗で試し、自分が使いやすいヘッドホンを探してみてください。
・サスティンペダル
サスティンペダルは、踏むことによって音を伸ばすことができるペダルです。サスティンペダルを踏めば、鍵盤から指を離しても音を伸ばし続けることができます。ピアノでは「ダンパーペダル」と呼ばれており、必ず使用するのでキーボードと一緒に購入しておきましょう。
なお、サスティンペダルには極性があり、メーカーによって異なるため注意が必要です。本来はサスティンペダルを踏むと音が伸びますが、極性が逆になってしまった場合、サスティンペダルから足を離すと音が伸びるようになってしまいます。
極性が逆の場合は、あらかじめキーボード本体で設定を行う必要があるため、購入前に確認しておきましょう。
・シールドケーブル
シールドケーブルは、キーボードをアンプやミキサーに接続して音を出力するためのケーブルです。ケーブルの長さはピンキリですが、自宅以外でも使用するのであれば5mの長さがあると便利です。なお、スタジオなどで用意されているものをレンタルすることも可能ですが、マナーとして自分のケーブルを持っておくことをおすすめします。
・キーボードケース
バンドでキーボードをするのであれば、スタジオやライブ会場にキーボードを持ち運ぶ必要があります。そのため、キーボードを保護するためのケースを購入しましょう。ソフトケースやハードケースなど、さまざまな種類がありますが、持ち運びやすさ重視の方にはソフトケースがおすすめです。車のトランクに乗せて移動する場合が多いなど、キーボードが傷つかないか不安な方はハードケースを選びましょう。
キーボード初心者の練習におすすめの曲
・椎名林檎「幸福論」
東京事変のメンバーとして活動した椎名林檎は、1998年にソロデビューしました。そして、デビューシングルとしてリリースされ、椎名林檎を語るうえで外せない名曲が「幸福論」です。
ストリングスやベルの音など、さまざまな音色が駆使されており、キーボードのスキルが幅広く使われた曲となっています。これからキーボードを始める方にとって、勉強になるテクニックや音色の設定などが詰め込まれているため、椎名林檎が好きな方はぜひチャレンジしてみてください。
・フジファブリック「若者のすべて」
「若者のすべて」は、2007年にリリースされてから現在も人気を博している、フジファブリックを代表する名曲です。Aメロやサビで、音の高さだけが異なるオクターブ奏法を取り入れているため、オクターブ奏法の練習をしたいという方にぴったりの曲となっています。また、要所で出てくるピアノのフレーズが印象的な曲であるため、バンドで演奏する際は曲全体をしっかりまとめられるよう意識してみてください。
・Official髭男dism「Pretender」
Official髭男dismが2019年にリリースして大ヒットした「Pretender」を弾けるようになりたいと思っている方も多いのではないでしょうか。間奏ではシンセサイザーソロもあるため、キーボードが主役としても活躍できる曲です。
ただし、コード進行やリズムが複雑になっているため、習得には時間がかかる方もいます。ひとつずつ着実に練習すれば弾けるようになっていくため、この曲が好きな方は少しずつ練習していきましょう。
まとめ
今回は、バンドで使えるおすすめのキーボードや選ぶ時のポイント、キーボードとあわせて準備したい機材や初心者向けの練習曲などについて解説してきました。自分に合ったキーボードを選ぶためには、バンドでの役割や使い方を確認し、条件を絞っていく必要があります。
また、キーボードにもさまざまな種類があるため、搭載されている音色や機能、タッチ感などを実際に体感して選ぶことが重要です。これからキーボードを始めたいという方は、ぜひ本記事を参考にしながら自分にとって理想のキーボードを探してみてください。