はじめに
こんにちは。意識低い系ミュージシャンの龍ちゃんです。
「力を抜いて音楽をする」をモットーに音楽に役立つ情報を発信しています。
楽に音楽をするために知識を身に着けていきましょう。
今回のテーマは「〇〇と△△だけで音楽は作れる」です。
早速この穴を埋めてしまいます。「緊張」と「弛緩」です。
緊張と弛緩だけで音楽は作れます。
あまり使い慣れない日本語かもしれませんが、よく使われている音楽用語に置き換えると、「ドミナントとトニック」になります。
こちらは聞いたことがあるのではないでしょうか?
今回は音楽理論の専門用語を一通り理解したうえで、そこから一段上に進むために必要な音の「機能」についてお話ししていきます。
まったくの初心者という方は、「初心者脱却パッケージ」を読んで音楽の専門用語の理解を頑張ってみてください。
この記事を読むことで、様々な楽曲のコード進行が意味を持って理解できるようになります。
音楽は時間芸術
以前も記事を書きましたが、音楽というのは時間芸術であり、緊張と弛緩の演出が本質的な要素になります。
例えば同じく時間芸術であるホラー映画の本質もいかに緊張感と恐怖を配置するか、ということになります。
お化けが5分おきに出てきても映画の半分ぐらいで飽きてしまいますし、日常のシーンが延々とつづいても間延びします。
音楽に関しても同じです。作曲とはすなわち安心感と緊張感のコントロールをすることです。
「誰も聴いたことのないような全く新しく美しいメロディを作る」というのは実はあまり作曲に関して本質的な部分ではなく、もちろんメロディの美しさも非常に大事な要素ではあるのですが、真に大事なのはそのメロディから広がる繋がりをいかに演出するか、ということになります。
さて、脚本の場合はフィクションの世界観を文に書き起こすという方法でこのコントロールをすることができますが、
音楽の場合はどこをコントロールすればよいのでしょう?
「ここは緊張でここは弛緩で・・・」と計画を書いたとしても、いざ作曲するときに何の音を使えばいいのか困りますね。
その答えはコードの「機能」にあります。ダイアトニックコードという概念があります。
ポップスにおいては主に「とあるキーのメジャースケールの構成音それぞれから三度を二回重ねて作った七種類の和音」という意味です。
(詳しくは解説記事「コードの読み方で全てが変わる!!「ダイアトニックコード」解説」をご覧ください)
これらはそのキーの中でのローマ数字に対応する「機能」を持ちます。
例えばキーCにおけるGはⅤというダイアトニックコードで、キーGにおけるDもⅤというダイアトニックコードです。GとD、それぞれ違うコードですが、ローマ数字が共通するそれぞれのキーにおいては同じ役割をこなします。
反対に、キーCにおけるGはⅤですが、GはキーGにおいてはⅠで、キーDにおいてはⅣです。
同じコードでもキーが違えば番号が違ってきて、役割も変わります。
(こちらの早見表を印刷して手元に置いておくと音楽をやるうえで何かと便利です。)
さて、この「機能」がどんなものかを詳しくみていきましょう。
コードには「機能」がある
まず音楽そのものの構造を見ていきましょう。
現代の音楽というのはコードの上にメロディが乗っかる、という構造で作られていることがほとんどです。
この構造が一般的になったのはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどが活躍した「古典派」と呼ばれる時代です。
古典派という時代はピアノが民衆に普及した時代であり、楽曲には「わかりやすさ」「弾きやすさ」「親しみやすさ」が求められました。
それまでの音楽は複数のメロディが絡み合ってゴージャスに展開していくという構造で作られていました。
グラデーションのような滑らかな変化をしていく音楽であり、安心感と緊張感というのが比較的なだらかに連なっています。
対してわかりやすさが求められた古典派の音楽では、コードというものを用いて音楽を縦に区切ることが一般的になりました。
つまり、グラデーションになっていたものをより単純に、意図的に区切るようにしたのです。
こちらの音源を聞いてください。
聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
音楽の授業での「気をつけ、礼」ですね。
これは音楽の先生が適当に弾いているのではありません。試しに適当に弾いてみましょう。
これを聞いてお辞儀する体制にはならないですよね。(壮大な音楽が始まりそうな感じはしますが)
一方こちらは先ほどのものとは音の高さは変わっていますが、お辞儀したくなるはずです。
実はこれ、ダイアトニックコードで表すと「Ⅰ→Ⅴ→Ⅰ」という並びになっています。
例えばキーCだと C→G→C というコード進行、キーE♭だと E♭→B♭→E♭ というコード進行です。
このⅠとⅤというのが和音の機能を語る上での基本中の基本になります。Ⅰが弛緩、Ⅴが緊張のボスです。
つまりこの一瞬のお辞儀を和音の機能を元に分析してみるとこうなります。
- Ⅰで安心感が示される。お辞儀の準備。
- Ⅴで緊張感、動きが示される。お辞儀をする。
- Ⅰで再び安心感が示される。お辞儀の解除。
それぞれこういった明確な役割を持っているわけです。
グラデーションのようになっているものを「安心か緊張か」で縦に区切って単純化したという説明がお分かり頂けたでしょうか。
さて、Ⅰが弛緩、Ⅴが緊張の象徴ということが分かった上で、これからは相対的に安心か緊張かという尺度で和音を見ていくことになります。
試しにお辞儀のⅤ、緊張のフェーズを、同じく相対的に緊張感の高い和音をたくさん繋げて伸ばしてみます。
すべてコードネームでいうとGが基本になっていて、その上の装飾が変化しているだけのコードです。
緊張フェーズが伸びてなかなか元の姿勢に戻れない感じがしますね。
緊張フェーズを様々な和音で引き伸ばす、というシンプルな発想だけでもかなりドラマチックな音楽っぽくなっています。
曲の中では、例えばサビの前にこういった手法で緊張感を高めてサビの着地感を強める、なんてテクニックを使ったりします。
全ての和音の機能を安心か緊張かで見ていくことでこういった気の利いた演出ができるようになるのです。
音楽理論においては、この安心の方を「トニック」と呼び、緊張の方を「ドミナント」と呼びます。
もう一つ「サブドミナント 」というものも存在し、そちらは名前の通り「ドミナント の準備段階」という機能があるものです。
実際にお辞儀の緊張フェーズ、つまりドミナントの前に、そのサブドミナントを挟んでみました。比較して聞いてみましょう。
ワンクッション挟まれて、急に緊張が高まる感じが緩和されましたね。
クラシック音楽(ここでいうクラシックとは先ほど挙げた古典派のことです)においてはドミナントとトニックの切替はかなり明確に行われるのですが、ポップスというのはあまり段が激しくならないような作りになっていて、このサブドミナント による緊張の準備がかなり重要な役割を果たしています。
サブドミナントであるⅣに重心が置かれている音楽が非常に多いのです。
トニックとドミナント、緊張と弛緩について語るうえで、クラシックとポップスの違いに関してもう少し話を広げます。
クラシックでは緊張の後は弛緩、つまりⅤのあとはⅠ、という考え方は厳格に守られます。対してポップスに関してはこの点が非常に自由になっています。自由だからこその分析や作曲の難しさがあるのです。
音楽理論を学ぶ際の注意点なのですが、私たちは音楽理論を学ぶ際にどうしても「ルール」を求めてしまう傾向にあります。
いい曲を作るためにどんなルールを守ればいいのかということを知り、迷うことを減らしたい、なるべくシンプルな発想で音楽を作りたい、という気持ちがある人がかなり多いです。
しかし音楽理論はあくまで分析の手段、つまりパレットの絵の具をあつめる手段です。
今回の記事は「ドミナントのあとは必ずトニックである」というルールを示したいのではありません。
音楽を分析する上で「緊張と弛緩」「ドミナントとトニック」という尺度があるとわかりやすいよということを示すのが目的になります。
つまりその尺度を元にどう分析するかは人の自由であり、反対に「こうすればいい曲ができる」という単純な法則を示せるものではないということです。
今回の記事に関して「ドミナントの後はトニックでなくてはならない」という読み違いを起こしてしまうと、今後に支障が生じてしまうので注意してください。あくまでもコード進行の各ポイントで相対的に緊張感があるか安心感があるかということが本質的な話になります。
実際に緊張と弛緩を分析してみよう
緊張と弛緩をコードで演出するということの具体例を示してみます。
わからない専門用語はとりあえず無視して、「分析や作曲にはこのような考え方を使うのだな」ぐらいの認識を得られれば大丈夫です。
こちらはコード進行の基本を見ていくのにうってつけなスピッツの「チェリー」です。サビだけ抜粋しました。
出典:U-FRETより画像引用 https://www.ufret.jp/song.php?data=41
このコード譜をパッと見て頭から「G、Am、Em…」といちいち追いかけていくのは賢明ではありません。
ポップスは基本的にベースになるコード進行があってそれに小技が加わっているという構造になっていることがほとんどです。
よって、まず最初にするべきことは、ベースになるコード進行が何かを見定めることです。
「チェリー」のコード進行をよく観察すると、「Am→Em→F→C」という組み合わせが基本となってループしていることが見て取れると思います。
太線が一小節、細線が二拍ごとに引いてあります。
基本パターンがコードネームで分かったことで、コード進行やそこに登場するコードがどんな役割を持っているのかを判断するにはダイアトニックコードのローマ数字を用いることが必要です。
それにはコードネームとキー、二つの情報が必要になるので、まずキーを判定しましょう。
キーを判定する上ではまず最初に、登場するコードを探します。
ここでは「Am→Em→F→C」の四つを探してみましょう。
とりあえず何も考えずこの四つに〇をつけてみました。
現時点ではすべてがダイアトニックコードに当てはまっているキーCの可能性が高そうです。
試しにすべてのキーにおけるローマ数字でコード進行を書いてみましょう。
- キーC Ⅵ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅰ
- キーF Ⅲ→?→Ⅰ→Ⅴ
- キーG Ⅱ→Ⅵ→?→Ⅳ
- キーB ?→?→Ⅴ→?
ここからはちょっとした知識が必要です。
実は循環するコード進行、とくにサビのコード進行では、Ⅰ、Ⅳ、Ⅵのうちどれかから始まることがほとんどです。
並んだコードを見ると、やはりさっきの時点で確率が高そうだったキーCではコード進行がⅥから始まっていますが、他のキーを見ると最初のコードがⅢ、Ⅱ、そもそもダイアトニックでない、というようになっています。
これらのコードからサビのループが始まることは考えづらいので、チェリーのサビはキーCと断定してよさそうです。
さて、チェリーのサビをキーCのダイアトニックコードとしてローマ数字に変換してみましょう。
Ⅵ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅰを基本のものとして分析してみます
さて、このようにまとめることで、コードを一つ一つ頭から追いかけていくよりもずいぶんと構造がわかりやすくなりました。
「G、Am、Em…」という単なるコードの羅列ではなく、「キーがCでⅥ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅰの塊が基本になっていて、そこに部分的にⅤが登場する」という情報をとらえることができたわけです。
長くなりましたがここからが本題、「緊張と弛緩の演出」です。
先ほど申し上げた通り、Ⅴという和音は緊張感を演出する性質があります。同じ緊張感といえどこのサビの前についているⅤとサビの終わりに一度現れるⅤは意味合いが違います。
サビの前は緊張感を高めて「ここからサビ来ますよ」という意味、サビ終わりは緊張感を高めてその後の着地感を演出することにより「ここでサビ終わりますよ」という意味になります。
ここまででチェリーのサビの分析が完了しました。
「なぜⅥ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅰの順番が基本になっているのか」という点をもっと細かく見ていくこともできるのですが、大まかな「緊張と弛緩」の分析はこのような手順を踏みます。
- ベースとなるコード進行がどれかを探る
- そこに挟まれている小技がどのように緊張と弛緩を演出しているかを分析する
今後様々な曲を題材にコードでの演出の分析を書いていこうと思っていますが、今回はそのさわりの部分ということで書いてみました。ダイアトニックコードで基準となるパターンを分析してみて、そこにたまに出てくる小技にどんな意味があるのかを考えるというのが音楽を楽に楽しく行う上で重要な視点になってきます。頭から一つ一つ追いかけていくコード読みからは卒業できるように頑張ってみてください。
まとめ
今回の記事ではコードには「機能」があり、それは相対的に緊張か安心かという尺度で分析ができるものだ、ということをお伝えしました。
今後コードの小技に関する記事をこれから書いていきますが、例えば
このコードは元のコード進行の緊張感をより高める方向に持っていっている、このコードは安心感をあえて減らして後を引く感じを演出している…
などという分析の仕方をしていきます。ベースとなるコード進行をいかに装飾しているのか、という見方で行うものであり、何度も繰り返しますがそのコード単品が大事なのではなく相対的な見方が大事になります。
緊張と弛緩で音楽を見ていくということに慣れていきましょう。