スピッツ「空も飛べるはず」の楽曲解説!王道の爽やかさの秘密
こんなさわやかソングを台無しにしてくれやがって…。
本記事では、コード進行の解説をメインに、「空も飛べるはず」のさわやかさの秘密を解き明かしていきたいと思います。
コード進行解説
イントロ
(C→G→Am→)×3
F→G→
キーCでダイアトニックコードの考え方を用いて、ローマ数字に変換します。
(Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→)×3
Ⅳ→Ⅴ→
ダイアトニックコードの中で、一番使いやすい方から4つ選んでください、と言われれば、Ⅰ,Ⅴ,Ⅵm,Ⅳです。その4つだけで構成されているイントロです。それだけ見れば、超王道じゃんという感じはしますが、よく見ると、ⅠとⅥmという相反するコードを頻繁に繰り返している作りは少々特殊です。
明るさの象徴であるⅠ、暗さの象徴であるⅥmの、当然のような繰り返し。そして何事もなかったかのように、Ⅰを導いてくるⅣ→Ⅴ→という動き。
この淡々とした感じが、スピッツの温度感にすごく合いますね。
Aメロ
(C→Dm→G→Am→F→C→D→G→)×2
キーCでダイアトニックコードの考え方を用いて、ローマ数字に変換します。
(Ⅰ→Ⅱm→Ⅴ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅱ→Ⅴ→)×2
Ⅰ→Ⅱm→Ⅴ→Ⅵm→
まずは前半部分。「ⅠからⅡm」「ⅤからⅥm」と、「メジャーから長二度上のマイナーに行く」という動きの繰り返しが心地よいです。
こうした動きをクラシックの用語で、「反復進行」と言います。同じ度数で動く進行を繰り返すことで音楽の動きを作る手法は、統一感と変化の両方を実現できるので、様々な場面で出てきます。
一番有名なものに「ツーファイブ」がありますね。5度の進行をひたすら繰り返して音楽を作る手法です。
Am→Dm→G→C→F→Bm7-5→E7→Am (よく見ると、五度下、五度下…と連続して動いています。)
さらにメロディも、「幼い微熱を」「下げられないまま」と、音が変わりつつも形は変わらない動きが繰り返されます。淡々としつつも音楽を前に進めていく感じが出ていますね。
Ⅳ→Ⅰ→Ⅱ→Ⅴ→
続いて、後半部分。Ⅰから始まるコード進行のくくりは比較的長くとられることが多く、(例:カノン進行)その後半部には大抵、要約するとⅣ(Ⅱm)→Ⅴとなる進行が置かれます。前半が導入部で、後半はその後の展開に繋げるための部分として扱われます。
Ⅳ→Ⅴで本当は十分だけど、尺調整をするためにⅣの後にⅠを挟み、さらにせっかくなのでⅤの前にⅤを導くⅡを置いているようなイメージです。
Bメロ
Am7→Am7→FM7→FM7→
Dm→C/E →F→G→
キーCでダイアトニックコードの考え方を用いて、ローマ数字に変換します。
Ⅵm7→Ⅵm7→ⅣM7→ⅣM7→
Ⅱm→Ⅰ/Ⅲ →Ⅳ→Ⅴ→
Bメロでは、コード進行の動きが今までよりゆるやかになるのが定番です。サビに向けた心の準備をするためです。ここでもその例にもれず、Ⅵm→Ⅳという動きは今までの半分のペースになっています。
歌は、「色褪せながら」「ひび割れながら」と、同じメロディを2回繰り返しますが、コードは変わっています。
Ⅵm7→Ⅵm7→ⅣM7→ⅣM7→
Ⅱm→Ⅰ/Ⅲ →Ⅳ→Ⅴ→
なぜこんなことが可能なのかというと、Ⅵm7とⅣM7の構成音に秘密があります。Am7はラ、ド、ミ、ソ。FM7はファ、ラ、ド、ミ。「ラ、ド、ミ」が共通しています。さらに、「ソ」はFM7の時に鳴らしても問題が少ない音です。FM7add9というとても綺麗なコードになります。
コードの構成音がほとんど変わらずに、ベースだけが動くから、曲は動いた感じがするのに、メロディは変わらないという作りが可能になるわけです。
音楽において大事なのは、「持続と変化の両立」です。持続しているだけではつまらないし、変化しっぱなしでも疲れる。そのちょうどいいバランスを探っていくのが大事なわけです。それを実現するための一つの手段が、こうした、構成音が似ているコードで動く技です。
Ⅱm→Ⅰ/Ⅲ →Ⅳ→Ⅴ→
後半は、これまたBメロの定番で、ベースラインが少しずつ上がっていきます。大きくみれば、Ⅰを目指してのⅡm→Ⅴなのですが、その間にⅢとⅣがあるから、せっかくなら通って行こうよ、という感じです。
我々の耳は単純ですから、「隣の音に進む」という動きが好きです。特に、サビに向けて高揚感を作っていくBメロの終わりでは、わかりやすく登っていくこの動きは多用されます。
サビ
C→G→Am→F→G→C→
F→G→Em→Am→D→G→
C→G→Am→F→G→C→
F→G→Em→Am→F→G→(C)
キーCでダイアトニックコードの考え方を用いて、ローマ数字に変換します。
Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ→
Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm→Ⅱ→Ⅴ→
Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ→
Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm→Ⅳ→Ⅴ→(Ⅰ)
シンプルな進行の塊ですね。
(Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→ イントロで出てきた進行)(Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ→ 言わずとしれたⅠで終わる動き)
(Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm→王道JPOP進行)(Ⅱ→Ⅴ→ 言わずとしれたⅠを導く動き)
Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ→
Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm→(Ⅳ→Ⅴ 言わずとしれたⅠを導く動き)→(Ⅰ)
こんな具合でしょうか。
イントロと同じようなメロディ、コード進行で冒頭が歌われたのち、最高音が現れる「このむねにあふれてる」というフレーズが超王道進行のⅣ→ Ⅴ→Ⅰで歌われます。この時点で、このサビは相当な印象づけに成功しています。
イントロのメロディがサビで出てくるというのは喜ばしいです。形を変えて同じものが出てきた!という喜びがまずあって、そのあとに、最も印象に残る最高音が来るという作り、芸術的です。
特に、最高音の使い方というのはサビを分析する時に重要な要素になります。非常にシンプルな論理になりますが、最高音は当然当てるのが難しいですから、歌い手のパワーが最も入るところであって、それは当然楽曲の重心になります。最高音が含まれるフレーズは、必然的にその歌の中で最も印象的になることが多いです。
草野マサムネさんの場合、もともと高音を力を出さずに歌えてしまうので、(うらやましい)パワーというとちょっと合わないかもしれませんが、それでも耳で聞いて印象に残るのはやはり「このむねにあふれてる」ではないでしょうか。
その後は、「いーまは」「じゆーうに」と、再び出てきました。リズムの反復です。しかも、みんな大好き王道JPOP進行の上でそれをやります。面白さを作ることに余力がないですね。「いーまは」と「じゆーうに」の間は八分二つですが、「じゆーうに」の後に「そらも」が八分一つで出てくるのも、裏切りのような効果があって良いです。
他方、「そーばで」「わらーって」の後の「いーてほーしーいー」は、八分3つ開けて歌われます。前半と後半の対比も効いていますね。「空も飛べるはず!」と鼓舞するのは急いでいる感じ、「(そばでわらって)いて欲しい」とお願いするのは躊躇っているかんじでしょうか。ロマンチックな物語も見えてきます。
そもそも「王道」ってなんだ
筆者は平成12年生まれですが、スピッツは「王道」「さわやか」として見ています。ただ、この記事を書くにあたって、「本当に王道か?」ということが気になりました。スピッツがその当時どんな位置付けだったのか。
「空も飛べるはず」が発表された1994年のヒット曲はこんなラインナップになっています。
Tommorow never knows/ Mr. children
I LOVE YOU/ 尾崎豊
未来予想図Ⅱ/ DREAMS COME TRUE
ロード/ THE虎舞竜
…
なんか、結構コテコテな印象を受けます。
このラインナップからすると、スピッツの持つめちゃくちゃに淡々とした爽やかな空気感は当時の王道ではなく、むしろ先進的だったのかなと思います。
これはちゃんとした裏付けをとっていませんが、「Ⅲ(Ⅲ7)」を使わないヒット曲という点で「空も飛べるはず」は新しかったのではないでしょうか。
多分、上にあげた曲のどこかしらにⅢが入っていると思います。完全な憶測です。ⅢというのはⅥmを導く、強い哀愁を誘うコードです。泣かせる系のJPOPにおいては、サビ前やサビの重心でⅢが演奏されて哀愁が表現されることがとても多いです。その意味で、上の曲には「Ⅲが入っていそう」と見ています。時間があったら調べて追記します。「Ⅲ」の有無、研究テーマとして面白そうですね。
ただ、「空も飛べるはず」のどこにも哀愁の重心のようなものは見当たりません。「王道」しかやらずにすっと流れていくような爽やかさがスピッツのオリジナリティ。こねくりまわさない美学が見て取れます。
私も、こんな風が吹いていくような曲がつくりたいものです。こねくりまわさないのには才能が必要!
まとめ
いかがだったでしょうか。
王道さわやかすぎて解説に困った部分もあったのですが、逆に王道さわやかという価値観を作り上げてしまうクオリティの凄さ、「何がすごいのかわからない」という凄さを見た気がしました。
作曲はじめてちょっとするとこねくりまわしたくもなりますが、シンプルイズザベストを忘れないようにしましょうね。
それでは、良い音楽ライフを!
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