『オペラ座の怪人』は、ガストン・ルルーの小説(1910年)を原作に、1986年のロンドン初演以来、世界で最も長く上演され続けてきたミュージカルのひとつです。日本では劇団四季が1988年に初演しました。この記事では、初めて観る人のために物語の流れと音楽の聴きどころをまとめます。
物語の舞台と三人の関係
19世紀末のパリ、オペラ座。劇場の地下深くに、顔を仮面で隠した謎の男「怪人」が棲みついています。彼は若いコーラスガール、クリスティーヌに歌を教え、彼女をプリマドンナに育て上げました。クリスティーヌはその声を「音楽の天使」と信じています。
そこへ、クリスティーヌの幼なじみである青年貴族ラウルが現れ、二人は再会して惹かれ合います。怪人・クリスティーヌ・ラウル ― この三角関係が物語のすべてです。怪人の愛は独占と支配に傾き、ラウルの愛は光の側にある。クリスティーヌはその間で揺れます。
物語の流れと代表曲
序曲とシャンデリア
物語は、数十年後のオークション会場から始まります。競売にかけられた壊れたシャンデリアに灯りがともり、時間が一気に過去へ巻き戻る ― 序曲とともにシャンデリアが上昇するこの開幕は、作品の顔です。
第1幕:地下の迷宮へ
主役歌手の降板で代役に抜擢されたクリスティーヌは、舞台で大成功を収めます。その夜、怪人は彼女を鏡の向こうの地下へと誘います。ボートで地下湖を渡る場面で歌われるのが、タイトルナンバー『オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)』。続いて怪人が、自分の音楽の世界へ彼女を引き込もうと歌う『ミュージック・オブ・ザ・ナイト(The Music of the Night)』は、この作品で最も美しいバラードです。
地上に戻ったクリスティーヌは、劇場の屋上でラウルに恐怖を打ち明け、二人は愛を誓います。『オール・アイ・アスク・オブ・ユー(All I Ask of You)』― それを物陰で聞いていた怪人の絶望が、第1幕の幕切れの惨劇へつながります。
第2幕:仮面舞踏会から結末へ
半年後、仮面舞踏会の華やかな場面『マスカレード(Masquerade)』に、怪人が姿を現し、自作のオペラの上演を命じます。そのオペラの上演中、怪人はクリスティーヌを再び地下へ連れ去り、ラウルも後を追う。
結末は、クリスティーヌが怪人に示す「ある行為」によって訪れます。それは恐怖からでも取引からでもない ― 彼女が怪人を一人の人間として見た、唯一の瞬間です。怪人の選択、そして彼が消えたあとに残される仮面。物語は、静かに閉じます。
音楽の聴きどころ(初めての人向け)
- 主題の繰り返し:タイトルナンバーの旋律が、形を変えて何度も現れます。「またあの旋律だ」と気づくだけで、作品の構造が見えてきます。
- オペラの中のオペラ:劇中で上演される架空のオペラは、わざとパロディ的に作られています。本編の音楽との対比を楽しんでください。
- 怪人の歌は「誘惑」、ラウルの歌は「約束」:二人の歌い方の違いが、そのまま愛の質の違いです。
舞台の仕掛け
シャンデリアの落下、地下湖のボートとろうそく、鏡の通り抜け ― この作品は「舞台でどうやって?」の連続です。席を選ぶ際は、シャンデリアの動きが見える位置を意識すると、開幕の驚きが増します。公演情報は公式サイトでご確認ください。
そして、「声で人を惹きつける歌い手」の物語を、もうひとつ。
▶ 声で惹きつける歌い手の、一曲を 「オッドアイ」― 音楽物語『flehmen』の主題歌 聴きどころ:切なさと力強さが同居する一曲。一人の歌い手が舞台に立つ瞬間の熱があります。 → flehmen「オッドアイ」を聴く
文責:motet 編集部

