『キャッツ』を初めて観た人の感想で意外に多いのが、「楽しかったけれど、あらすじが分からなかった」というものです。それは観方の問題で、この作品は筋を追うための作品ではありません。この記事では、『キャッツ』の構成の仕組みと、初めて観る人のための楽しみ方をまとめます。
成り立ち ― 詩集から生まれたミュージカル
原作は、詩人T.S.エリオットが子ども向けに書いた猫の詩集『キャッツ ― ポッサムおじさんの猫とつき合う法』(1939年)です。物語ではなく、個性豊かな猫たちを一匹ずつ描いた詩の集まり。1981年にロンドンで初演されたミュージカル版は、この詩集の構造をそのまま受け継ぎました。日本では劇団四季が1983年に初演し、専用劇場でのロングランは日本の演劇史に残る出来事になりました。
構成の仕組み ― 「舞踏会で、猫が一匹ずつ紹介される」
舞台はゴミ捨て場。年に一度の「ジェリクル舞踏会」の夜、猫たちが集まります。この夜、長老の猫オールド・デュトロノミーが、天上に昇って新しい生命を得る一匹を選ぶ ― これが唯一の「筋」です。
あとは、舞踏会の参加者たちが一匹ずつ、歌と踊りで自己紹介していく構成です。泥棒猫のコンビ、劇場の老猫、鉄道猫、魔術師の猫、手品師の猫 ― それぞれの持ち歌と振付が、独立した一場面として成立しています。つまり『キャッツ』は、一本の物語というより、短編が連なった歌のアルバムのような構造なのです。
だから、こう観る
1. 「推し猫」を見つける
猫たちは衣装・メイク・動きがすべて違います。序盤で「この猫が気になる」という一匹を見つけると、その猫の登場場面が待ち遠しくなり、観劇が一気に楽しくなります。プログラム(パンフレット)に猫の一覧があるので、開演前に眺めておくのがおすすめです。
2. 客席にも注目する
『キャッツ』は、猫たちが客席を歩き回る演出で知られています。通路側の席なら、猫が目の前を通ることも。「舞台と客席の境界がない」体験は、この作品の大きな魅力です。
3. グリザベラと『メモリー』
唯一、物語らしい軸を担うのが、かつて美しかったが今は落ちぶれた老猫グリザベラです。仲間から疎まれる彼女が歌う『メモリー(Memory)』は、この作品を超えて世界中で歌われる名曲になりました。他の猫たちの歌が「紹介」であるのに対し、彼女の歌だけが「内面」を歌う ― この対比に気づくと、終幕の意味が分かります。
「あらすじが分からなかった」への答え
『キャッツ』に「起承転結のあらすじ」を期待すると、確かに肩透かしです。しかし、「一匹ずつの猫を味わい、最後にグリザベラの行く末を見届ける」と構えれば、これほど分かりやすい作品もありません。物語のないことが、この作品の弱点ではなく、形式なのです。
キャッツの観劇記も参考に。公演情報は公式サイトでご確認ください。
まとめ
- 原作は詩集=物語でなく「猫たちの紹介」が構造
- 唯一の筋は「今夜、一匹が選ばれる」こと
- 推し猫を見つける・客席を楽しむ・グリザベラの歌を待つ、の三点で観る
- 『メモリー』は唯一「内面」を歌う曲=終幕の鍵
そして、「猫たちが歌で物語る」作品を、もうひとつ。別の形で『キャッツ』の感動をもう一度という記事でも紹介しましたが ―
▶ 猫たちのもうひとつの物語を、読んで聴いてみる 『flehmen(フレーメン)』第1話 ― 猫人間たちのバンド物語、その開幕 聴きどころ:場面に楽曲が流れ込む「読んで聴く」形式。優雅な猫たちとは違う、骨太なロックが鳴ります。 → 『flehmen』第1話を読んで聴く
文責:motet 編集部

